『巣 徳島SFアンソロジー』を読了。
正直もっと何回も読みこまなきゃ完全に消化できないような面白さなんだけど、とりあえず感想を。
前川朋子さんの「新たなる旋回」は、うららかな昼の川辺りに現れた屋台の紅白幕のような、ふんわりとした異界の入り口から徳島の空を仰ぎ見れる、心洗われる写真集。
田丸まひるさんの「まるまる」は、湿った土から掘り返したダンゴムシが丸まった●の中こそが宇宙の本当の〈内側〉であり、外側にいる我々は靄のような存在……と思わせる、不安と温もりを短歌で切り取った作品。ダンゴムシの足が折りたたまって出来た「殺」の字にギュッと閉じ込められた世界への祈り。
小山田浩子さんの「なかみ」は、トコロテンで出来た快速列車に乗ってツルツル滑っていく車窓を眺めてるかのような勢いで物語が進む、話運びの上手さに痺れる凄すぎる作品。小説にこんな力があるなんて。全く理に適ってると認識しながら進む、夢の中のような展開。小山田さんの作品をもっと読まないと。
久保訓子さんの「川面」は、読み進めることで違和感の正体がじわじわと判っていくような、じっとりとしたマジックリアリズム。牛糞の臭いもチューインガムのレモン味もしっかり感じられる、何ひとつズレてない世界が堅牢に築きあげられてるのが物恐ろしさを増強させる。本作が一番好き。
吉村萬壱さんの「アウァの泥沼」は、陰謀論の中で見つけたあらゆる不調を治すという泥沼を求めて重い体をひきずり徳島を横断する、切実さに溢れた作品。疲れすぎてTikTokをダラダラ見るぐらいしか出来ない状態で『すずめの戸締まり』みたいなことをやるのが何だかおかしいが、笑ってる場合じゃないぜ。
そんなふうに感想を一生懸命考えた三連休だった。