田中槐さんの「三月のP」は校正で忙しい主人公のもとに宇宙人がフラリとやってくる軽やかな作品。相手の正体はぼんやりとしか判らないが「その程度の関係でもな!毎日楽しくやっててほしいと思う…それくらい人として普通だろ!?(by『チート付与魔術師』)」という善き気遣いに溢れてる。短歌も素敵。
高田友季子さんの「飾り房」は、徳島がすっかり寂れた近未来を舞台に、もはや過去へと引き返せない瞬間を描いた非常に重い作品。未来という濁流の中では押し潰されるしかない人間のやるせなさ。「母が年を取るのをやめれば、祐子はただ近づいていくしかなかった」の一文が鉄の鎖になって心に巻き付く。
竹内紘子さんの「セントローレンスの涙」は、ノラ猫が徳島の不思議の数々にモニモニされる愉快な作品。とはいっても不思議が全て裏で繋がっている!という陰謀論的な話ではなく、不思議同士がキャンプ場でばったり出逢って徳島弁で冗談を言い合ってるような、心にジンと広がる温もりが嬉しい。
なかむらあゆみさんの「ぼくはラジオリポーター」は〈そっとふみはずす〉の王道を行く、不思議の中に「やったじゃん!」って瞬間がたくさん詰まった心晴れやかな作品。しっかりした現実に根付いた〈キリッ〉と不思議の〈フワッ〉の緩急のつけかたが上手すぎる。ひょうたん島という名前からもう好き。
吉村萬壱さんの「アウァの泥沼」は、陰謀論の中で見つけたあらゆる不調を治すという泥沼を求めて重い体をひきずり徳島を横断する、切実さに溢れた作品。疲れすぎてTikTokをダラダラ見るぐらいしか出来ない状態で『すずめの戸締まり』みたいなことをやるのが何だかおかしいが、笑ってる場合じゃないぜ。
そんなふうに感想を一生懸命考えた三連休だった。