ウェンディ・ブラウン著/河野真太郎訳『新自由主義の廃墟で 真実の終わりと民主主義の未来』、読了。
現代社会で台頭する排外主義や権威主義、フェイクニュースといった問題の根源が、新自由主義にあると主張。
ハイエクなどの初期新自由主義者の思想を分析し、彼らの考え方がどのように現在の政治状況に影響を与えているか、どう変容してしまったかを考察する。
新自由主義が、民主主義の根幹をなす「平等」や「社会的なもの」といった概念をどのように侵食しているかを論じる。
その下では、客観的な事実よりも、個人の感情や意見が重視される傾向があり、結果として「真実」が相対化され、フェイクニュースが蔓延する状況を生み出していると指摘。
さらに、排外主義や権威主義といった反民主主義的な政治勢力の台頭を後押ししていることを論じる。
新自由主義と伝統的道徳がセットなのは知っていたが、ハイエクのころからこんなにもガッツリ組み合わさっているとは知らなかった。ハイエクの「夢」は「国家による規制から自由という原則を通じて、かつては社会と民主主義が存在した場所に市場と道徳をすえつけること」……。
「自由」とは……と考えさせられる本でした。
#読書
荒谷大輔『贈与経済2.0』(翔泳社、2024)、読了。
第一章から第三章までのジョン・ロック、アダム・スミス、ジャン=ジャック・ルソー、カール・マルクス、マルセル・モースについての読み解きは丁寧で勉強になった。
第四章からはブロックチェーンを使った「贈与経済2.0」について。ざっくり言えば、「贈与」と「感謝のトークン」を編集不可能なかたちで記録することで、「贈与」がまた生まれるという内容。しかし、このシステムを使いこなすには「健常性」あるいは認知的能力が必要であり、言語化能力が必要であると感じた。
「熟議民主主義の失敗」により、理性主義的前提を受け入れない人々の間で「分断」が起こっているのは、著者の分析通りだろう。
しかし、著者の主張する「対話」の形態、即ち「自分の価値観の前提を取り外した発言がより強い説得力をもつ」なるルールも、また能力による分断を生むだろうと思った。
これも「正しさ疲れ」からきているシステムの改変案なのだろう……。
#読書
俳人・岡田一実。俳句とか考えごととか。美味しかった話とか、読んだ本の記録とか、香水(主に量り売り)とか、旅のこととかいろいろ揺らぎつつ。幻聴があり、人生はだいたい徐行。リブ返しはちょっと苦手。体調によっては返せません。
HAIKU,for its own sake. she/they
句集に『境界ーborderー』(2014)、『新装丁版 小鳥』(2015)、『記憶における沼とその他の在処』(2018) 、『光聴』(2021)、『醒睡』(2024)。単著に『篠原梵の百句』(2024)。