東大行政学の牧原出「田中耕太郎」中公新書を読む。
牧原さんは山口二郎と同分野の後輩。サントリー・読売人脈の人。昨今はしきりに消費税増税を支持。
「反共」にして「反復古主義」の線に沿った田中耕太郎再評価の内容である。
確かに東大法学部はアジア・太平洋戦争に批判的なスタッフが主流で田中耕太郎はその一人だった。
しかし「反共」故に田中が、イタリアファシズムは肯定していたことには触れられていない。
また戦後最高裁長官として、松川事件を有罪、死刑判決支持。日米安保を違憲とした砂川事件を高裁を飛び越えて最高裁で覆したこと、また広津和郎の松川裁判ルポを「雑音」と排除したこと、を「司法権の独立を守るため」と評価していることには首を傾げる。
これで松川事件を正当化できるなら、「司法権の独立」とやらのために、「冤罪による死刑判決」も問題なし、となる。
ところで、本書があとがきで謝辞を述べているジョージタウン大学教授K.ドーク、「大声で歌え君が代を」の著者、桜井よし子所長の国家基本問題研究所関係者、「世界日報」にも寄稿している、「ザ・ネトウヨ」にしてジャパンハンドラーでもある。
ま、CIAとも強い関係があることは推測されるが、米のジャパンハンドラーのレベルも随分と下がってきたものである。
田中耕太郎は安倍能成、和辻哲郎、志賀直哉、谷川徹三など、「天皇の御学友」仲間、「心」グループ(天皇を囲む文化人の会)である。
WWII後第一次吉田茂内閣で文相、そこで「教育勅語はこのままで世界に通用する」の論陣を張った。
ところが、新憲法案審議が進むにつれて、「世界に冠たる教育勅語」という主張は非現実的となり、田中は教育基本法制定へと動く。
このあたり、丸山眞男が「オポチュニスト」と呼ぶ通りの行動様式である。
ちなみに南原繁は「心グループ」から毛嫌いされており、「GHQに菓子折りで取り入った」などいうデマを共有されていたた。この件については丸山眞男の証言がある。
田中はその後ワイマール期のカトリック中央党をモデルにした「緑風会」を参院で結成。このカトリック中央党は、SPDを排除するためにナチスの授権法に賛成決議をした。もし中央党が反対していたら、「合法的に」ナチスは政権を奪取できなかった。この責任はとてつもなく大きい。
その後、田中はレッド・パージを大学に適用しようとすれも、これは挫折。
しかしこの田中耕太郎を知識人のモデルとして造形する、というセンス、多いに首を傾げる。
ま、人脈的に御厨貴、五百旗頭薫、山口二郎とつながる牧原さんであれば、当然かも、だが。