アル戦 ジムサ話
浮かぶ景色には、馬たちが駆ける大草原と、彼方へと流れゆく大河、そして涯ての無い空が広がっている。乾いた風と、恵深き太陽の光を感じる。
そこに在る人と牧畜と天幕は、忍耐強い生活の証だ。生も死も、苦楽はその風景の中にあった。すべてが素朴で雄々しく、誇り高き戦士の土地だった。
今は遠くオアシスの都にあって、石の邸宅に切り取られた庭に寝転び、異国の夜空をただ眺めている身なれども。間違いなく、あの美しい草原こそが故郷であると思う。
「――惜しむべき 佳き草原を」
幼い頃から幾度となく唇に乗せた唄を、やや小さく口ずさむ。ほんとうは、馬頭琴の深い音色が伴って、より心にしみいる詩なのだが。
「など 棄つるや 君よ――」
棄てたことに、なろうか。経緯と結果を見れば、自軍に同士討ちをさせ、死すべきところで背を向けて逃げ去り、生きる為にと異国の王に仕えた。嵌められはしたが、結局確かな自分の意志でそうした。そんな人間は、あの草原を、もはや敵国人としてしか訪ねられぬのだろうか。あるいは、祖国を売った卑怯者としてしか。
この華やかな都市から北へと吹く風は、ダルバンド内海を渡り、我が心ひとつ、草原に飛ばしてはくれないだろうか。
「我が心、草原に在り――」
零れた呟きは己以外に聞く者もないから、故郷の言葉であった。
様々な目的に使える、日本の汎用マストドンサーバーです。安定した利用環境と、多数の独自機能を提供しています。