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憲法前文の勢いについて 藤原辰史
 
 “いつもあなたは威張っていたけれど、ずっと内心びくびくしていたことをわたしは知っています。心は完全に振り切れました。あまりにもたくさんの人が、焼き焦げ、熱に溶け、餓えて死に、自殺を強要され、船とともに海の底に沈み、人々を撃ち殺し、手足を引きちぎり、毒ガスで呼吸を止めました。我が子を水につけて殺し、家族と毒薬を飲み、手榴弾を胸元で爆発させ、海に身を投げました。この期に及んで、わたしは悪くなかった、時代が悪かった、しょうがなかったんだ、なんて、あなたは所詮その程度の人だった。理想が簡単に実現しないなんて百も承知です。でも、わたしの荒みきった暗い心も、放射能に浸された子どもたちも、絨毯爆撃された廃墟も、もう、理想以外にすがるものはない。あなたを地中の闇に沈め、二度と這い上がらないようにしてあげましょう......こんな怒りで体の震えが止まらず、上ずっているような声を私は全文の行間に何度も聞いてきた。”

“「あなた」は必然的に自分をも名指す。だから、全文には人類の負い目もまたしみ込んでいる。自分たちが犯してしまった罪に対する身の縮まるような恥をわたしは感じることもある。”

私にとっての憲法iwanami.co.jp/book/b285371.htm

 “これらの負い目はあまりにも重くて、どんなに負い目を軽減する物語を作って自分に読み聞かせても解消することができない。死者たちは夢のなかで幾度も蘇り、のどもとを締め付ける。振り払えないからこそ、もう、理想の濁流に飛び込むしかない。表現しつくせない後悔を捨て去れないのであれば、ここまで来てしまった以上、もうこれしかないのだ──そんな悲壮な覚悟を、戦後三一年たって生まれたわたしでさえも、日本国憲法の前文を読むたびに感じるのである。”
 

理念は力を持っている 坂本龍一

 “理念と現実の二元論、「理念はきれいごとにすぎず、現実とは違う」というような考えに対して、理念は力を持っているんだ、という反発が僕の中にあります。それはもしかしたら、三島由紀夫が死をもって訴えたことに少し近いのかもしれない。三島由紀夫が自刃した時、僕はちょうど一八歳で、やはりあの事件には大きなショックを受けました。”

 “日本は人権後進国で、実際に女性もいろいろな局面で差別されているし、他にも抑圧を受けている側の人たちがたくさんいます。やはり、その人たちにとっては憲法の理念はきれいごとではない。現実だからといって、それを肯定しなければいけないということは全くない。現実が間違っているのだったら、それは直さなくてはいけない。僕はそう強く思います。”
 

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