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SCENE6 ⑧ 

阿墨の顔をしたそれは、痛みによる唸りを上げた。

「ガルルルル!」

貴の前に飛び出し威嚇し、噛みついて攻撃したのは麻袋太郎であった。
強く唸りを上げると、阿墨の顔をした姦姦蛇螺は背を向け去っていった。

「全くしょうがない奴ワウ!……あ」

そう言ったかと思うと麻袋太郎はどこかへと走り去っていった。

SCENE6 ⑨ 

[視点]西園寺サラ

「お会いしたかったですわ日廻さん!」

「随分様子が変わられていますわね…お話は聞いていましたわ。教えてくださいまし、いったい、貴女に何があったというのですか?」

サラがそう問いかけると日廻の顔をした"それ"はニコリと笑う。
サラの隣に座り、サラの顔を見つめたかと思うと、肩を掴んでジッと目を合わせてきた。
「日廻さん?答えてくださらないのですか?それに貴女は本当に、もう…」

「危ないワウ!サラちゃん!」
「きゃあああ!何をしますのこの犬!」

麻袋太郎はまたもや現れると、日廻の顔をしたそれの首に勢いよく嚙みついた。
痛みと恐怖によりそのまま逃げだした"それ"をサラと真琴が追おうとするが、隙間に入ったまま見えなくなってしまった。

「あいつらにはよく言い聞かせておくワウ!サラちゃん無事でよかったワウ!」
「何を言っていますの?」

あれは死んだはずの日廻夏八の顔をしていた。
しかし、人間では通れるはずのないドアの下の隙間からこの部屋に侵入してきたのだ。

言いたいことがあったはずだが、麻袋太郎が怪異から自分を助けようとしたという事実に気づき、サラは当惑した。

SCENE6 ⑩ 

この犬は、敵ではなかったのだろうか?

SCENE6 END

???① 

「アメノスケほんと!?ほんとに出口が見つかったの?」
「ああそうだよシャロちゃん、ついておいで」

シャーロット・ワトソンの目の前にいる鴉羽雨之助は出口を見つけたと言い、シャーロットの手を引き、歩き出す。
もうこんな悲しくて怖いことは続いてほしくないと考えていたシャーロットは、ようやく見えた希望に胸をなでおろした。
これまで犠牲になった者たちのことが頭をよぎり、胸が締め付けられる。

雨之助はシャーロットの手を引き、線路を歩き出す。
「ねえアメノスケ、ここを歩くの?前は何もなかったわ。それに、他のみんなも呼ぶべきだわ」
「………」
「アメノスケ?」

何かを考えこんでいるのだろうか?

「ワウワウ!」
雨之助の返事を待っていた時に現れたのは麻袋太郎だった。

「タロウ…私たちね、もう帰るのよ」
「帰る?そこを歩いたって帰れないワウ。早くみんなのとこに戻るワウ」
「え?だってアメノスケが出口を見つけたのよ。ねえアメノスケ?」

???② 

話を振られた雨之助は少し考え込んだ後、急に笑い出した。

「はは、戻ろうかシャロちゃん。出口があるなんて嘘だよ、驚いたかな?」

シャーロットは唖然とした。
誠実な雨之助が何故こんな嘘をつくのだろう。
いや、麻袋太郎の前だからだろうか?

なんにしても、今このまま帰ることはできないと分かり、シャーロットと雨之助はホテルへと引き返した。

???③ 

---------------------
「えー?それマ?ほんとに警察がこっちに向かってるの?」
「ああ本当だよ。さっき警察から電話があったんだ」
「それもフェイクの可能性あるんじゃないの?」
「いいや、先ほど到着して麻袋太郎君のことも押さえ込んでいたからね」
「えっ……」

シャーロットがホテルに戻ると、鴉羽雨之助と一ノ瀬碧斗のそんな会話が聞こえてきた。
シャーロットはザっと血の気が引いた。
鴉羽雨之助はずっとシャーロットと共におり、今だって自分の後ろにいるはずなのに目の前で一ノ瀬碧斗と会話をしているのだ。
それに、麻袋太郎は押さえられてなどいないし警察が来た様子だってなかった。

振り返ると、自分と一緒にいたはずの雨之助はいなかった。

「なんなの、これ…?嘘よ。アメノスケは、こんな嘘をつく人じゃないもの…あなた、誰なの?」
そう言いながら碧斗と雨之助に近づいていたその時、青い顔をした亘貴と西園寺サラが現れた。

「みんな来てくれ……話があるんだ」
「私もなのよ!あのね、アメノスケが……」

???④ 

雨之助の名前を聞いたサラは驚いたような顔をした後、シャーロットを優しく抱きしめた。
「もう、知っていらしたのですね…サラはまた、間に合いませんでしたわ」

サラの言っていることがシャーロットと碧斗にはよくわからなかった。
間に合わない?

「何言ってるの?雨之助お兄さんはここにいるけどどうしたの?」
「え?いるとは…どこにでしょう?」
「いやだから、ここに…」

碧斗が指さす先には誰もいなかった。

「…いるわけないだろ、だって鴉羽さんは」

???⑥ 

貴とサラに連れられて雨之助のベッドに行くと、冷たくなった雨之助がいつものように寝ていた。
しかし、もう起きることはない。
二人が伝えたかったのはこれだったのだ。
なかなか起きない雨之助のことが気になり起こそうと揺すぶった際に体が冷たいことに気づき、もう生きていないことを確認したという。

では、シャーロットと碧斗が会っていたあの鴉羽雨之助は何者だったのだろうか?
そういえば、ジャック・オー・ランタンは嘘つきな怪異だという。
もし、彼も怪異となってしまっていたのだとしたら…。
いや、シャーロットはそれを確信していた。

何故ならシャーロットに向けていた先ほどの雨之助の顔は、いつもの優しい笑顔ではなく……

???⑧ 

そうだ。あれは、雨之助の表情ではなかったのだ。
麻袋太郎が吼える中、鴉羽雨之助の遺体は消え去ってしまった。

--------------------------------

「…アメノスケ」

幼いシャーロットにも、状況が理解できてしまった。
立て続けに消えてしまった三人はいなくなってしまったのかもしれないと思い込もうとしていた。
しかし、冷たくなった鴉羽雨之助の姿を見た時に、現実を受け入れるしかなくなった。

「……もう、苦しまないでね」
シャーロットの記憶にこびりついた日廻と阿墨の悲鳴。
少しだけ見えた、暴れる天親の姿。
そして…静かに息を引き取っていた雨之助。

もう誰も苦しむことが無いよう、安らかに眠れるよう、祈っていた。
弔いの気持ちを込め折った折り紙の花を、そっと雨之助のベッドに置いた。

???⑩ 

[夜]

どこからか笑い声が聞こえる。
寒い。
目を覚ましたシャーロット・ワトソンは酷い寒さに震えていた。今まで、この場所でここまでの寒さを感じたことはなかった。
そして目の前には、白い小人がいた。

シャーロットの服の裾をクイクイと引っ張るそれに、シャーロットは恐怖を覚えた。
誰も欠けていなかった頃であれば、楽しく話しかけられただろう。
夢の中のように、遊んでいたかもしれない。
だが、夢の中でこの怪異が自分や友達に酷いことをしていたのも見ていた。

無条件に楽しく遊ぶことのできる相手では、無くなっていた。
そんな思いからシャーロットが俯くと、その怪異は気を悪くしたようでシャーロットを恐ろしい顔で睨みつけた。

怖い、逃げたい。
このままではみんなを巻き添えにしてしまうかもしれない。

そんな、様々な思いが入り交じり、シャーロットは走り出していた。
雨之助の顔が浮かぶが、頼れる彼はもういない。
しかし涙が浮かんだその時、涙が冷たくなるのを感じた。
凍っている。
逃げられてなどいなかった。

???⑪ 

「やめて、なんでこんなことするのよ!私たちが何をしたっていうの?」
最後の抵抗だった。
あまりの寒さにシャーロットの足はもう動かなくなっていた。
恐怖と寒さに歯をがちがちと鳴らしながら、近づいてくるジャックフロストに必死に訴えかけることしかできなかったのだ。

「嫌よ…まだ、死にたくないわ。お願い……」

震える声でそう訴えかけるも、ジャックフロストはニコリと笑うと----

シャーロット・ワトソンを凍結させた。

???⑬ 

---------------------------------------
翌日、部屋にシャーロットがいないことに気づいた者達が探し回っていると、ホテルのロビーで信じられない光景を見ることとなった。
一面雪景色。その中で、巨大な氷の中に閉じ込められたシャーロット・ワトソンの姿であった。

麻袋太郎が駆けつけそれを確認すると、ニコリと笑い遠吠えをした。

途端、これまでの様に一面の雪ごとシャーロットの遺体は姿を消した。

???⑭ 

-------------------------
昨夜未明、△〇駅入り口にて鴉羽雨之助さん(34)が遺体となって発見されました。
遺体に外傷は見つかりませんでした。
警察は事件と自殺の可能性を追って捜査を進めています。
被害者は先月から行方不明となっていました。
-------------------------

-------------------------
昨夜未明、△×駅入り口にてシャーロット・ワトソンちゃん(6)が遺体となって発見されました。
検死の結果、遺体は凍死だと判明しております。
警察は事件の可能性を追って捜査を進めています。
被害者は先月から行方不明となっていました。
-------------------------

鴉羽雨之助 死亡END
シャーロット・ワトソン 死亡END

SCENE7 ① 

「ワウウ!お前らしつこいワウ!なんでそうやって出てくるワウ!?」

尻もちをつく一ノ瀬碧斗の前に現れたのは、花遊天親の面影のある大きな男であった。

SCENE7 ② 

手に深々と刺さった鎌や、首に開いた穴を見て碧斗は恐ろしくなり、立つことができなかった。
彼を見ていると碧斗は何故だか、この世界から消えてしまいたくなった来ていた。
このまま殺されるかもしれない恐怖におびえながら暮らすよりも、いっそここで自害してしまえば楽なのではないか。
帰ることに意味など、あるのだろうか。

そんな考えが頭をよぎった時に出てきたのが、麻袋太郎だったのだ。
「シッシッ、お前は襲っちゃダメワウ!」

麻袋太郎に促され、天親のようなそれは、忌まわしそうな目をしながら、背を向けて歩き出した。

「いやほんと勘弁だって……」
立て続けに怪異になった元仲間達に遭遇したこと。
また、二人も怪異による犠牲になったことにより『次は自分なのではないか』という恐怖から、碧斗は疲弊してきていた。

今はあまり考え事をしたくない碧斗は、少し睡眠を取ろうと布団を捲る。
そこからひんやりとした冷気を感じた。

「…ん?」

SCENE7 ④ 

ぴょこんと飛び出してきたのは、小柄であったシャーロット・ワトソンをさらに小さくしたような姿の小人であった。
一見するとその姿には恐ろしさはない。
だが、今の碧斗にはそんな愛らしい姿さえも安心できるものではなかった。
しかし、悪意は感じられない。

碧斗に向かってジャンプし、服にぶら下がって遊んでいる、ジャックフロストとなったシャーロットを見ていると、またもや麻袋太郎が駆けつける。

途端、シャーロットの肩が跳ねたかと思うと布団の隙間から伸びた腕がシャーロットを掴み、引きずり込んだきり姿を消していた。

「もう!!キリがないワウ~~!!」

SCENE7 ⑤ 

先日、怪異の姿となった三人に会ったことを一ノ瀬碧斗が皆に報告すると、西園寺サラと亘貴も同様に、隙間女のようになった日廻夏八と姦姦蛇螺のようになった阿墨修二に会ったという事実が共有された。

それらが本当に本人たちであったのかはわからない。
だがなんとなく、碧斗は本人たちであるという予感を持っていた。

「それから、その…阿墨さんが俺に近づいてきたとき、麻袋太郎が阿墨さんを攻撃したんだ」
「そこも同じですの!?サラの時もそんな行動をされていましたわ」

麻袋太郎は、サラに対しては好意的に接していたことにここにいる者達は気づいていた。
だから庇ったのだろうか?
だが、貴に対してそのような態度でいたことはなかった。

「麻袋太郎ってさ、なんで今までの人たちは助けなかったんだろ」

麻袋太郎が遠吠えをすると遺体は消えてしまう。
一連の惨劇に麻袋太郎が関与していることは、ここにいる者達にも想像がついていた。
麻袋太郎がサラ、貴、碧斗の三人を守ろうとした可能性は確かにあるが、命を落とした五人のことを思うと信じ切ることはできない。

考えた時に改めて五人の死を思い返し、何とも言えない気持ちになった。

SCENE7 ⑥ 

沈黙に耐えられず発言したのは、春夏冬レンだった。

「大丈夫だよみんな、麻袋太郎君は優しい人なんだ。だって……あれ?」

話し始めたかと思うと、そう言ってレンは何かを考えこんでしまった。
そしてしばらくそうした後、悲しそうな顔を皆に向けた。

「みんな…僕、思い出しました。なんで僕たちが、ここにいるのか」

SCENE7 END

???① 

西園寺サラは夢から醒めてからずっと悪寒を感じていた。。

電話の着信音が鳴る。
連日の恐ろしい夢もあり、電話の音が聞こえると余計に恐ろしい気分になる。
しかし、家族かもしれない。警察かもしれない。
なんにせよ、今外部からの連絡を無視したくないという気持ちがあった。
電話に出ると。

「私メリーさん。今、駅のホームにいるの」

これは夢で幾度となくかかってきたような電話だった。
ただ違うのは、伝えられた場所だった。
夢の中ではゴミ捨て場だったはず。
別人だろうか?と考える。

「夢でお会いしていた方でしょうか?もしもし?」

サラがそう答えるも、通話は既に切れていた。
すぐにまた着信音が鳴り、通話に応答する。

「私メリーさん。今、ホテルの前にいるの」
「ホテルの前ですか?わかりましたわ、サラがそちらに向かいます。少しそこでお待ちいただいて…あら?」

???② 

やはり、すぐに切られてしまっていた。
ホテルの前であればすぐに会えるのではないか、と思考が働いた。
しかし、会っても良いのだろうか。夢の中でサラは一度、メリーさんに刺されていた。
そんなことを少し考えた時に、ふと阿墨の事件の話を思い出す。

『春夏冬レンを犠牲に生きようとした阿墨を見て、怪異が怒っていたような様子があった』

という、話。
その話が本当であれば、怪異は目の前で起こっていることを理解する程度の知能はあると考えられる。
怪異となってしまったと思われる鴉羽雨之助は、シャーロットや碧斗と会話をしていたという話もあった。
メリーさんも言葉を話していた。それならば、対話もできる可能性がある。
対話をすればこの状況を把握できるかもしれない。
うまくいけば、説得できるのではないだろうか。
そんな一抹の望みを抱いた時、着信音が鳴った。

「私メリーさん、今、あなたの部屋の前にいるの」

???③ 

それを聞くなりサラはすぐさま歩き出し、扉を開けた。

「お会いしたかったですわ!メリーさん、サラの話を聞いてくださる?」
「………」

メリーさんは答えない。
それでもサラも引くわけにはいかなかった。
何かを思い出したレンは酷く動揺し、泣きじゃくっていた。
すぐに話せる様子もなく、一度落ち着かせ、ベッドに連れて行ったが…眠れるのかもわからないような、不安そうな様子だった。

相当ショッキングな内容なのだろうとサラには推測できた。
ならば自分も把握し、彼と一緒に皆に話せれば良いのではないか。
レン一人に、抱えさせてはいけない。

「メリーさん、何故私たちを」

聞こうとしたとき、サラは胸に重い衝撃を感じた。

???⑤ 

やはり、会ってはいけないモノだったのだとサラが判断した時にはもう遅かった。
強い痛みを感じ、呼吸もうまくできなくなっていた。
部屋に向かってくる誰かの足音が聞こえた。

「え?何かあったの?……サラさん!?ちょっと、しっかりしてください!」

倒れこむサラに駆け寄る真琴と、その後ろで青い顔をして震える碧斗の顔が見える。
寒い。体が冷たくなっていく感覚だった。
メリーさんの顔を見ようと視線を向けると、メリーさんは少し笑っているように見えた。
だが、その顔は少し悲しそうにも見えたのだった。

アオーーン!

麻袋太郎の遠吠えが聞こえると、真琴の腕の中にいたサラの姿は消えてなくなってしまった。

-------------------------
昨夜未明、××駅入り口にて西園寺サラさん(19)が遺体となって発見されました。
遺体は胸部に刺傷があり、警察は事件の可能性を追って捜査を進めています。
被害者は先月から行方不明となっていました。
-------------------------

西園寺サラ 死亡END

SCENE8 ① 

ずっと、何かを忘れている気がしていた。
忘れちゃいけない何かを。
ようやくわかった。思い出してしまった。

あのニュースは嘘じゃないんだってこと。

なんでみんながここに連れてこられたのかを僕はずっと忘れていた。
八尺様は僕を襲う気はなかったんだ。
だって、ずっと僕に対して優しい目をしていたから。

阿墨お兄さんが僕のことを姦姦蛇螺に襲わせようとしたとき、なんで姦姦蛇螺はあんなに怒っていたのか。
自分を見捨てた村人と同じことを阿墨お兄さんがしたから。
けど理由はまだあったんだろうな。
だってあの中には、"僕の従姉妹のお姉ちゃん"がいたから。

そうだ、僕はいなくなっちゃったみんなを取り戻したかったんだ。
いなくなっちゃった、大切な九人を。

SCENE8 ② 

「だから、僕が代わりになる人たち…みんなをここに呼んじゃったんだね」

八尺様は、僕のお母さんだった。
トイレの花子さんの中にいるのは女の子のお友達。
ジャック・オー・ランタンとジャックフロストは、イギリスでホームステイさせてくれた優しい親子。

他のみんなも、僕の大切な家族やお友達だった。
だからどうしても取り戻したくて。

怪異に襲われ殺されて、取り込まれてしまった、大切な皆を。

SCENE8 ③ 

------------------------------
【二か月前】

「ワウワウ!君一人ぼっちだワウ?悲しいワウ!そんなに泣いてるとその黄色い花も水色になっちゃうワン!ドラちゃんワウ!」

僕が公園で泣いてお願いをしているとき、彼が話しかけてくれた。
僕が泣いている理由を話すと、彼はゆっくり聞いてくれた。

「それじゃあ、みんなを取り戻したいワウ?」
「うん、帰って、来てほしい…」
「ワウワウ、それじゃあイケニエがいれば戻してあげるワウ!イケニエはワウが選んで連れてくるワウ…どう?」
「イケニエ?それって…代わりの人が死んじゃうってこと?」

彼は嬉しそうに何度も頷いた。
僕は一瞬悪い気がしたけどそれでも、どうしてもみんなに帰ってきてほしかった。
「…それでも、みんなに帰ってきてほしいから。イケニエさんごめんなさい…
おねがいします、せんじゅさま」

せんじゅさまは常世の者の願いを叶え、常世を正す存在である。

…難しい言葉だったけど、調べたんだ。
せんじゅさまは、願いをかなえてくれる優しい都市伝説さんなんだ。

SCENE8 ④ 

「ワウ!承知しました。じゃあ……この日に、この電車に乗りなさいワウ。そうすれば、準備は整うワウよ。すべて終わればみんな、かえってくるワウ!」

そうだ、だから電車に乗ったんだ。

今、僕の大切なみんなは生きて帰ってきているの?
けどその代わりに、ここにいるみんなが…。

僕は。

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SCENE8 ⑥ 

「せんじゅさま…僕、もういいです。みんなを、帰してあげてください…みんな、ごめんなさい」

春夏冬レンはボロボロと大粒の涙を零しながら皆に頭を下げ、経緯を説明した。

全ては、大切な人間を取り戻すため、春夏冬レンが怪異に願ったことで始まった惨劇だった。

SCENE8 END

SCENE9 ① 

「僕の願い事、これ以上は無かったことに、してください…」

目の前でボロボロと涙を流す六歳の男の子、春夏冬レン。
春夏冬レンの家族は次々と死を遂げたり失踪したりといったことが続いたという。
そしてそれを救うため、ここに生贄となる人間が呼ばれた。
それが、今回の事件の真相だった。

彼こそが、この怪奇現象と凄惨な事件の黒幕。
いや、こんなのは黒幕と言っていいのだろうか?

「レンくんの大切な人達よりもここで会ったこいつらを優先するワウ?レンくんの大切な人達はきっと言ってるワウよ?"レンくんたすけて~"って!それなのに助けてあげないワウ?」
「どういうことだ?」

「貴くん、君が代わりに怪異の生贄になればレンくんの大切な人が助かるワウ!みどりガッパに入ってるのは…レンくんのお兄ちゃんだったワウ?」

それを聞いた亘貴の顔は一気に青ざめた。
だんだんとわかってきた。
何故亘貴、一ノ瀬碧斗、西園寺サラは助けて、死んでいった者達のことは助けなかったのか。

SCENE9 ② 

レンの家族の身代わりにする必要があったから関係ない死に方をされては困るのだ。
ここで亡くなった者たちは元々、レンが取り戻したいと思っていた人間ではないから当然助けない。
怪異に取り殺させることに意味があったから。

「せんじゅさまは願いを叶えるワウよ~。レンくんがいる限りはそうする義務があるからね」

"レンくんがいる限りは"
こいつはそういう言い方をした。
つまり、願ったレンがいなくなった時に初めて願いを終わらせられるというのだ。

「やっぱ、阿墨おにーさんのしたこと正しかったんじゃん」

碧斗がボソッと呟いたその言葉が春夏冬レンの耳まで届いてしまった。
だが碧斗の本音だった。
大人で聡明な阿墨が命を落としたことは悲しかったから。
大人への憧れが大きい碧斗はそう感じてしまっていたのだった。

「そうじゃないだろ。それは言ってはいけないことだ」

だって本当のことじゃんとでも言いたげな顔をするが、今そのことで揉めても仕方が無かった。

フォロー

UNDER SIDE④ 

そういえばあの怪異達、憑りついた人間の影響を外見に強く受けたワウね。
………あれ?

そういえば。

ワンって元からこんなんだったっけ?

せんじゅさまは犬の姿をしてるワウ?

………ああ、なんてこと。
あいつらと一緒なんだ。

ワン、よりによって……犬に。

UNDER SIDE END

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