???⑧
アオーーン!!
麻袋太郎が遠吠えをする。
その途端、阿墨の遺体はこの場から消え去ってしまった。
その後は、恐怖により泣きじゃくる春夏冬レンの声と、抱きしめて安心させようと声をかけ続ける鴉羽雨之助の声が、この駅のホームに響き続けていた。
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昨夜未明、〇〇駅入り口にて阿墨修二さん(20)が遺体となって発見されました。
遺体は両腕を切断されていました。
また、腹部から足先にかけての全てを欠損しており、そちらは未だ見つかっておりません。
警察は事件の可能性を追って捜査を進めています。
被害者は先月から行方不明となっていました。
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阿墨修二 死亡END
???
民謡が聞こえてくる。
何故かその歌が嫌なものだと,
花遊天親は感じた。
この感じはよくない。
ぞわぞわと鳥肌が立っている。
民謡のほかに、もう一つ音があることに気が付いた。
それは、足音だった。
「冗談やないぞ…」
民謡のような歌を歌いながら近づいてくるそれが人ではないことに気が付いてしまった。
それは、花遊天親がこの駅に着いてすぐに、それと、夢の中でも何度も遭遇したあの怪異、"邪視"だった。
夢の中でそいつと会った時、幾度となく酷い目に遭っていた。
見てはいけない。見たら自分はきっとおかしくなる。
天親は全力で走るが、邪視との距離を離せているようには到底感じられない。
息が苦しい。
息を整えようと冷蔵庫の陰に隠れ足を止めたその時、左手に強い衝撃が来た。
そして感じるのは重みと痛み。
その痛みの正体は、天親自身の手を貫通するほど深く刺さった小型の鎌だった。
その鎌は夢で何度も見たあいつが手に持っていた。
つまり、この鎌を刺した犯人も……。
???④
まだ消えることができない。痛い。
痛い。早く終わってほしい。
痛い。
そんな思考をしながらも手は自身の喉を刺すのをやめない。
人一倍生存意欲の高かった花遊天親はそんなことを考える人間ではなかっただろうが、邪視という怪異による精神の支配からは逃げられなかった。
「なにしてんですか花遊さん!押さえよう亘さん!」
食堂に来た野々宮真琴と亘貴がそんな天親を見つけ必死に止めるが、彼の抵抗は強かった。
なんとか止めて助けたいのだが、二人がかりで押さえつけるのがやっとだった。
ヒューヒューと息を吐きながらもまだ自害しようとする天親を手当てすることもできず、人を呼ぶこともできず。
押さえつけ説得する中、花遊天親の体は冷たくなっていった。
「ワウワウ!手遅れになったワウ!」
アオーーン!
麻袋太郎が吼えると、真琴と貴の腕の中にいた花遊天親の遺体は消え去ってしまった。
SCENE6 ①
日廻夏八は気がおかしくなった末に。阿墨修二は自らが生きるために残忍な行動に走り、両者とも怪異により命を落とた。
更には花遊天親までもが自害をし、その場に居合わせた野々宮真琴と亘貴も心に傷を負っている。
他の者も気落ちしている者が増えていた。春夏冬レンの精神状態にも気を配った方が良いだろう。
「落ち込んでばかりはいられませんわ!皆さんで生きて帰らなければ……え?」
サラがなんとか手掛かりを探そうとスマートフォンで情報収集をしていると、信じられないものを目にした。
それは西園寺家が破滅したというニュース記事。
両親にも連絡がつかず、正しい状況を把握するすべがない。
そもそも両親は無事なのだろうか?春夏冬レンの両親や日廻の姉の件がサラの頭をよぎる。
だが、二人の件があったうえでのこのニュースはやはり信用できるものだとは思えなかった。ここに集められた者のうち、三名の身内がほぼ同時期に亡くなったり家庭が崩壊することなど、偶然にしてはできすぎている。
皆を追い詰めるためのフェイクニュースだと考えられる。
SCENE6 ②
しかし、断定はできなかった。
外の情勢が大変なことになっているかもしれない。
あるいは、身内に不幸が訪れる者がここに集められた…いや、そんな未来のことは誰にもわからない。
だが、誰かが意図的に「ここにいる者の関係者を死に至らせているのだとしたら?」
様々な想像はできるものの、やはり断定できるものなどなかった。
ただ一つ、確定しているのは。
西園寺家を信じているということ。
そう決意する彼女には、先ほどから気になっていたことがあった。
今、サラは自室に一人でいるはずなのに何者かからの視線を感じている。
そのため何度か顔を上げるが、やはりだれもいない。
「気のせいなのでしょうか……あら?」
この部屋のドアの下に、何かが見える。
近づいてみるとそれは手だった。手はこちら側に侵入しようと這い出てくる。
ずるりと這い出てきたのは--。
SCENE6 ⑨
[視点]西園寺サラ
「お会いしたかったですわ日廻さん!」
「随分様子が変わられていますわね…お話は聞いていましたわ。教えてくださいまし、いったい、貴女に何があったというのですか?」
サラがそう問いかけると日廻の顔をした"それ"はニコリと笑う。
サラの隣に座り、サラの顔を見つめたかと思うと、肩を掴んでジッと目を合わせてきた。
「日廻さん?答えてくださらないのですか?それに貴女は本当に、もう…」
「危ないワウ!サラちゃん!」
「きゃあああ!何をしますのこの犬!」
麻袋太郎はまたもや現れると、日廻の顔をしたそれの首に勢いよく嚙みついた。
痛みと恐怖によりそのまま逃げだした"それ"をサラと真琴が追おうとするが、隙間に入ったまま見えなくなってしまった。
「あいつらにはよく言い聞かせておくワウ!サラちゃん無事でよかったワウ!」
「何を言っていますの?」
あれは死んだはずの日廻夏八の顔をしていた。
しかし、人間では通れるはずのないドアの下の隙間からこの部屋に侵入してきたのだ。
言いたいことがあったはずだが、麻袋太郎が怪異から自分を助けようとしたという事実に気づき、サラは当惑した。
???①
「アメノスケほんと!?ほんとに出口が見つかったの?」
「ああそうだよシャロちゃん、ついておいで」
シャーロット・ワトソンの目の前にいる鴉羽雨之助は出口を見つけたと言い、シャーロットの手を引き、歩き出す。
もうこんな悲しくて怖いことは続いてほしくないと考えていたシャーロットは、ようやく見えた希望に胸をなでおろした。
これまで犠牲になった者たちのことが頭をよぎり、胸が締め付けられる。
雨之助はシャーロットの手を引き、線路を歩き出す。
「ねえアメノスケ、ここを歩くの?前は何もなかったわ。それに、他のみんなも呼ぶべきだわ」
「………」
「アメノスケ?」
何かを考えこんでいるのだろうか?
「ワウワウ!」
雨之助の返事を待っていた時に現れたのは麻袋太郎だった。
「タロウ…私たちね、もう帰るのよ」
「帰る?そこを歩いたって帰れないワウ。早くみんなのとこに戻るワウ」
「え?だってアメノスケが出口を見つけたのよ。ねえアメノスケ?」
???③
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「えー?それマ?ほんとに警察がこっちに向かってるの?」
「ああ本当だよ。さっき警察から電話があったんだ」
「それもフェイクの可能性あるんじゃないの?」
「いいや、先ほど到着して麻袋太郎君のことも押さえ込んでいたからね」
「えっ……」
シャーロットがホテルに戻ると、鴉羽雨之助と一ノ瀬碧斗のそんな会話が聞こえてきた。
シャーロットはザっと血の気が引いた。
鴉羽雨之助はずっとシャーロットと共におり、今だって自分の後ろにいるはずなのに目の前で一ノ瀬碧斗と会話をしているのだ。
それに、麻袋太郎は押さえられてなどいないし警察が来た様子だってなかった。
振り返ると、自分と一緒にいたはずの雨之助はいなかった。
「なんなの、これ…?嘘よ。アメノスケは、こんな嘘をつく人じゃないもの…あなた、誰なの?」
そう言いながら碧斗と雨之助に近づいていたその時、青い顔をした亘貴と西園寺サラが現れた。
「みんな来てくれ……話があるんだ」
「私もなのよ!あのね、アメノスケが……」
???⑧
そうだ。あれは、雨之助の表情ではなかったのだ。
麻袋太郎が吼える中、鴉羽雨之助の遺体は消え去ってしまった。
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「…アメノスケ」
幼いシャーロットにも、状況が理解できてしまった。
立て続けに消えてしまった三人はいなくなってしまったのかもしれないと思い込もうとしていた。
しかし、冷たくなった鴉羽雨之助の姿を見た時に、現実を受け入れるしかなくなった。
「……もう、苦しまないでね」
シャーロットの記憶にこびりついた日廻と阿墨の悲鳴。
少しだけ見えた、暴れる天親の姿。
そして…静かに息を引き取っていた雨之助。
もう誰も苦しむことが無いよう、安らかに眠れるよう、祈っていた。
弔いの気持ちを込め折った折り紙の花を、そっと雨之助のベッドに置いた。
???⑩
[夜]
どこからか笑い声が聞こえる。
寒い。
目を覚ましたシャーロット・ワトソンは酷い寒さに震えていた。今まで、この場所でここまでの寒さを感じたことはなかった。
そして目の前には、白い小人がいた。
シャーロットの服の裾をクイクイと引っ張るそれに、シャーロットは恐怖を覚えた。
誰も欠けていなかった頃であれば、楽しく話しかけられただろう。
夢の中のように、遊んでいたかもしれない。
だが、夢の中でこの怪異が自分や友達に酷いことをしていたのも見ていた。
無条件に楽しく遊ぶことのできる相手では、無くなっていた。
そんな思いからシャーロットが俯くと、その怪異は気を悪くしたようでシャーロットを恐ろしい顔で睨みつけた。
怖い、逃げたい。
このままではみんなを巻き添えにしてしまうかもしれない。
そんな、様々な思いが入り交じり、シャーロットは走り出していた。
雨之助の顔が浮かぶが、頼れる彼はもういない。
しかし涙が浮かんだその時、涙が冷たくなるのを感じた。
凍っている。
逃げられてなどいなかった。
???⑭
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昨夜未明、△〇駅入り口にて鴉羽雨之助さん(34)が遺体となって発見されました。
遺体に外傷は見つかりませんでした。
警察は事件と自殺の可能性を追って捜査を進めています。
被害者は先月から行方不明となっていました。
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昨夜未明、△×駅入り口にてシャーロット・ワトソンちゃん(6)が遺体となって発見されました。
検死の結果、遺体は凍死だと判明しております。
警察は事件の可能性を追って捜査を進めています。
被害者は先月から行方不明となっていました。
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鴉羽雨之助 死亡END
シャーロット・ワトソン 死亡END
SCENE7 ②
手に深々と刺さった鎌や、首に開いた穴を見て碧斗は恐ろしくなり、立つことができなかった。
彼を見ていると碧斗は何故だか、この世界から消えてしまいたくなった来ていた。
このまま殺されるかもしれない恐怖におびえながら暮らすよりも、いっそここで自害してしまえば楽なのではないか。
帰ることに意味など、あるのだろうか。
そんな考えが頭をよぎった時に出てきたのが、麻袋太郎だったのだ。
「シッシッ、お前は襲っちゃダメワウ!」
麻袋太郎に促され、天親のようなそれは、忌まわしそうな目をしながら、背を向けて歩き出した。
「いやほんと勘弁だって……」
立て続けに怪異になった元仲間達に遭遇したこと。
また、二人も怪異による犠牲になったことにより『次は自分なのではないか』という恐怖から、碧斗は疲弊してきていた。
今はあまり考え事をしたくない碧斗は、少し睡眠を取ろうと布団を捲る。
そこからひんやりとした冷気を感じた。
「…ん?」
SCENE7 ⑤
先日、怪異の姿となった三人に会ったことを一ノ瀬碧斗が皆に報告すると、西園寺サラと亘貴も同様に、隙間女のようになった日廻夏八と姦姦蛇螺のようになった阿墨修二に会ったという事実が共有された。
それらが本当に本人たちであったのかはわからない。
だがなんとなく、碧斗は本人たちであるという予感を持っていた。
「それから、その…阿墨さんが俺に近づいてきたとき、麻袋太郎が阿墨さんを攻撃したんだ」
「そこも同じですの!?サラの時もそんな行動をされていましたわ」
麻袋太郎は、サラに対しては好意的に接していたことにここにいる者達は気づいていた。
だから庇ったのだろうか?
だが、貴に対してそのような態度でいたことはなかった。
「麻袋太郎ってさ、なんで今までの人たちは助けなかったんだろ」
麻袋太郎が遠吠えをすると遺体は消えてしまう。
一連の惨劇に麻袋太郎が関与していることは、ここにいる者達にも想像がついていた。
麻袋太郎がサラ、貴、碧斗の三人を守ろうとした可能性は確かにあるが、命を落とした五人のことを思うと信じ切ることはできない。
考えた時に改めて五人の死を思い返し、何とも言えない気持ちになった。
SCENE10 エピローグ①
八尺様と春夏冬レンが消えると、駅にアナウンスが響いた。
『一番線に普通列車、〇〇行きが到着します。危ないですので、黄色い線の内側に下がっておまちください』
ずっと待ちわびていた言葉だった。
本当にこの惨劇が終わるというのだろうか。
これは罠ではないか。
これに乗ったら皆死んでしまうのでは…。
そんな不安もあるものの、ここで乗らなければもう帰る手段など本当になくなってしまうだろう。
「みんな、乗ろう」
ホームに来た電車に三人で乗る。
不安から、広い車両でみんなでくっついて並んで座ることにした。
皆で無事帰れたことを確認するため、降りる時も、同じ駅で降りようと話しながら。
最年少である、一ノ瀬碧斗の最寄り駅で降りることが決まった。
『次は~△△駅~△△駅~~お降りの際は…』
聞き覚えのある駅。
「ここって前に亘さんと話してた大学の近くじゃない?」
そういえばこの駅は受験候補の一つである大学の最寄り駅だったな、と亘貴は思い出す。
ああ、本当に帰ってこれたのだ。
SCENE10 エピローグ③
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【数日後】
「碧斗お前ずっとどこ行ってたんだよ!」
「碧斗くん大丈夫?私、もう会えないのかと思っちゃったよ!」
一ノ瀬碧斗のクラスの教室ではそんな会話が繰り広げられ、碧斗の机の周りには人だかりができていた。
「だーから知らない駅に着いて帰れなくなってたんだって!」
「いやお前それきさらぎ駅じゃん!」
「それ載せたらバズるんじゃね?」
一ノ瀬碧斗のいつものような日常。
それを取り戻すことができていた。
彼は、生きて帰ることができたのだから。
「あーもう、この話終わり!TikTok撮ろうぜ、俺やりたいダンスあるんだけどさ~」
SCENE10 エピローグ⑤
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三人で様々なことを調べたのち、亘貴と野々宮真琴はこの日偶然駅前で出くわした。
調べた結果としてはまず、皆全員が山中で遺体となって発見されたというニュースは元の世界では流れていなかった。つまり、デマだったのだ。
日廻夏八の言い方をすると、毒電波のようなものによる仕業だった。
そしてそれによる取材記事などを読んだところ、日廻の姉は生きていた。
つまり、それもデマだった。
だが、本当のこともあった。
獣誘渡駅で亡くなった者たちのその後見た遺体発見のニュースはどうやら本物のようだった。
あの駅で見た通りの発見のされ方をしていた。
葬儀をすでに済まされた者、これから葬儀が行われる者と様々だ。
それから、春夏冬レンの親が亡くなったというニュースも本物だった。
ただし、ニュースに出ていたのは母親のみであった。
「あの、すみません」
声を掛けられ振り返ると、男性がいた。
「この子を見ませんでしたか?この駅に乗ったきり帰ってこなくて…警察にも連絡したんですけど、見つからなくて探しているんです」
男性が差し出した写真に写っていたのは、春夏冬レンだった。
この男性は、レンの父親だという。
SCENE10 エピローグ⑥
レンが嘘をついていたようにも見えない。それはつまり、あの世界で死んだ者の代わりに死がなくなったのがこの男性…レンの父親ということなのだろう。
信じられないが、信じられないことはもう十分経験していた。
「私達もレンくんと友達だったんです。けど、見つけられなくて…」
野々宮真琴が返事をしていた。
知らないとも言えず、しかしあの非現実的な話をするわけにもいかずそんな返しをしていた。
その後、レンの父親とレンについての少し話をし、別れた。
「見つかると、いいな」
戻ってきてから気になることがもう一つあった。
それは自分自身さっきから感じている目線だった。
振り向くと、自販機と自販機の間からこちらを見つめる目と目があってしまった。
未だに不気味に感じる。
そしてインターネットには最近はやり始めた都市伝説の話題が出ていた。
自身のいる場所に近づいてくる謎の着信。
手に鎌の刺さった白くて巨大な男を見たという話。
山奥に出てくる下半身が蛇の、男の化け物の話。
隙間から出てくる腹の裂けた女の話。
調べたところ、海外でも雪道に現れる小人の話や、嘘ばかりつくカボチャ頭の男性の話。
SCENE10 エピローグ⑦
そう。
獣誘渡駅で生まれた怪異がこちらの世界に来てしまったのだ。
あの時電車で見た皆の姿は嘘ではなかった。
ああいった怪異達は元は伝聞により生まれた存在であることが多いのだと思っている。
例えば、怪人アンサーなどはそれが明確に明かされている怪異らしい。
ならば、彼らを消すことのできる対処法を広めることができればそれは彼らという都市伝説の一部に成り得るのではないのだろうか。
それが、彼らを成仏させる唯一の方法なのかもしれない。
あるいは、皆が怪異達を意識せずに忘れ去ることが条件になるのかもしれないが、それはおそらく元の人間のことも忘れる必要があるのだろう。
もう、混ざってしまっているのだから。
忘れてはいけない。
UNDER SIDE①
ワウワウ!
ワンが人面犬だと思ってたお前、マヌケワウ!
ワンを見るとすーぐ人面犬だと言う奴がいてしつれーワウ!
せんじゅさまにそんなこと言っちゃダメワウよ!
そうそう、ワンことせんじゅさまの呼び出し方、教えてあげるワウ
用意するのは、
[黄色いお花]
[鈴]
それから、[願い事]ワウ!
まずこれは、子供の多くいる場所で行うワウ。
公園とか、学校が良いワウね!
持ってきた黄色いお花を持って願い事を口に出して唱えると、せんじゅさまが現れて素敵に願いを叶えてあげるワウ!
ワンが出てきたときに鈴も鳴らせば不幸も払ってくれるワウけど…レンくんは焦ってそれを忘れちゃったワウね!ワフワフ!
……まあ、[せんじゅさま]を呼び出して願いを言った人間はその後"幸せすぎて"失踪や自殺をしてしまう、なーんて不穏な続きもあるけどね。ワウワウ
UNDER SIDE②
怪異達についてワウ?
言ったとおり、この世界の怪異達は人間を取り込んで力を持っていたワウ!
人間を取り込んでからは存在をより強いものにできてたからあいつらはそれでよかったワウけど、戻すようレンくんに願われたらそうもいかないワウね~
ところで君たち、"この世界"で起こる事件や事故ってなんだと思うワウ?
人間の悪意や憎悪による事件。
疲れや寝不足、不注意などで起こる事故。
色んなものがあるワウけど、それって全部人間だけで完結する話ワウ?
レンくんの家族みたいに、怪異のせいで事故や事件に巻き込まれた人ってどのくらいいると思うワウ?
ワフフ!ワウはわかんないワウ!
まあでもあいつらみんなワンの言うこと聞いてくれてよかったワウ。
せんじゅさまは"そういう怪異"だから願われたことで力が働いたワウ?
それとも、怪異の中にいるレンくんの身内の意識が働いたかもしれないワウ?
あいつらはもう人ではないワウ!怪異ワウ!
どっちで考えてもいいワウよ!確かめようがないんだから。
…八尺様には驚かされたけど。
UNDER SIDE③
ジャック・オー・ランタンが大人を選んだときはびっくりしたワウよ!
まあ、先に子供を取られちゃってたからそうなるワウけどね。
レンくんが願ったからできたことワウ。
レンくんが願って、ジャック・オー・ランタンが力をつけていたからワンの力も働いた…ワウワウ!共同作業ワウ!
できなかったらどうしようかと思ったワウ。
ん?
あいつらはあの駅にいた怪異程の凶暴性はないワウよ。
君たちが夜な夜な見ていた夢で君たちを襲って、うまくいけばあいつらは力を得る…力は徐々に蓄積されて、力がたまれば晴れて現実でも憑りつくことができる。
そういう仕組みだったワウ。
思い当たるもの、あるワウよね?
全く、天親くんがあんなもの持ってなければもっと手っ取り早くできたのに!
まあ邪視とか姦姦蛇螺みたいな奴らはどうかわかんないけどね。
あの駅にいた怪異達は、目的が出来ちゃったから。あと、ちょーっとワンの力が働いてあんな感じだったワウね!
まあでも、もしあいつらの身内や知り合いがワンを呼び出して、同じように願ったら……ワフフ!どうなるか楽しみワウね!
SCENE10 エピローグ②
そんな話をしていると、肩に重みを感じた。
一ノ瀬碧斗の頭だった。
外の景色が見覚えのある現実の光景だったことに安心したのだろうか、緊張の解けたような顔で眠ってしまっていた。
「俺たち、帰ってこれたんだな」
碧斗の最寄り駅に着くと二人ともいることを確認し、一緒に電車を降りる。
亘貴はその時、ふと魔が差した。
何気ない行動だったように思う。だから本当に、ふと。
ふと、隣の車両を見ると。
怪異となった皆がいた。
怪異としての姿を見た覚えのない、西園寺サラのようなモノも引き連れながら----