SCENE6 ①
日廻夏八は気がおかしくなった末に。阿墨修二は自らが生きるために残忍な行動に走り、両者とも怪異により命を落とた。
更には花遊天親までもが自害をし、その場に居合わせた野々宮真琴と亘貴も心に傷を負っている。
他の者も気落ちしている者が増えていた。春夏冬レンの精神状態にも気を配った方が良いだろう。
「落ち込んでばかりはいられませんわ!皆さんで生きて帰らなければ……え?」
サラがなんとか手掛かりを探そうとスマートフォンで情報収集をしていると、信じられないものを目にした。
それは西園寺家が破滅したというニュース記事。
両親にも連絡がつかず、正しい状況を把握するすべがない。
そもそも両親は無事なのだろうか?春夏冬レンの両親や日廻の姉の件がサラの頭をよぎる。
だが、二人の件があったうえでのこのニュースはやはり信用できるものだとは思えなかった。ここに集められた者のうち、三名の身内がほぼ同時期に亡くなったり家庭が崩壊することなど、偶然にしてはできすぎている。
皆を追い詰めるためのフェイクニュースだと考えられる。
SCENE6 ②
しかし、断定はできなかった。
外の情勢が大変なことになっているかもしれない。
あるいは、身内に不幸が訪れる者がここに集められた…いや、そんな未来のことは誰にもわからない。
だが、誰かが意図的に「ここにいる者の関係者を死に至らせているのだとしたら?」
様々な想像はできるものの、やはり断定できるものなどなかった。
ただ一つ、確定しているのは。
西園寺家を信じているということ。
そう決意する彼女には、先ほどから気になっていたことがあった。
今、サラは自室に一人でいるはずなのに何者かからの視線を感じている。
そのため何度か顔を上げるが、やはりだれもいない。
「気のせいなのでしょうか……あら?」
この部屋のドアの下に、何かが見える。
近づいてみるとそれは手だった。手はこちら側に侵入しようと這い出てくる。
ずるりと這い出てきたのは--。
SCENE6 ⑨
[視点]西園寺サラ
「お会いしたかったですわ日廻さん!」
「随分様子が変わられていますわね…お話は聞いていましたわ。教えてくださいまし、いったい、貴女に何があったというのですか?」
サラがそう問いかけると日廻の顔をした"それ"はニコリと笑う。
サラの隣に座り、サラの顔を見つめたかと思うと、肩を掴んでジッと目を合わせてきた。
「日廻さん?答えてくださらないのですか?それに貴女は本当に、もう…」
「危ないワウ!サラちゃん!」
「きゃあああ!何をしますのこの犬!」
麻袋太郎はまたもや現れると、日廻の顔をしたそれの首に勢いよく嚙みついた。
痛みと恐怖によりそのまま逃げだした"それ"をサラと真琴が追おうとするが、隙間に入ったまま見えなくなってしまった。
「あいつらにはよく言い聞かせておくワウ!サラちゃん無事でよかったワウ!」
「何を言っていますの?」
あれは死んだはずの日廻夏八の顔をしていた。
しかし、人間では通れるはずのないドアの下の隙間からこの部屋に侵入してきたのだ。
言いたいことがあったはずだが、麻袋太郎が怪異から自分を助けようとしたという事実に気づき、サラは当惑した。
???①
「アメノスケほんと!?ほんとに出口が見つかったの?」
「ああそうだよシャロちゃん、ついておいで」
シャーロット・ワトソンの目の前にいる鴉羽雨之助は出口を見つけたと言い、シャーロットの手を引き、歩き出す。
もうこんな悲しくて怖いことは続いてほしくないと考えていたシャーロットは、ようやく見えた希望に胸をなでおろした。
これまで犠牲になった者たちのことが頭をよぎり、胸が締め付けられる。
雨之助はシャーロットの手を引き、線路を歩き出す。
「ねえアメノスケ、ここを歩くの?前は何もなかったわ。それに、他のみんなも呼ぶべきだわ」
「………」
「アメノスケ?」
何かを考えこんでいるのだろうか?
「ワウワウ!」
雨之助の返事を待っていた時に現れたのは麻袋太郎だった。
「タロウ…私たちね、もう帰るのよ」
「帰る?そこを歩いたって帰れないワウ。早くみんなのとこに戻るワウ」
「え?だってアメノスケが出口を見つけたのよ。ねえアメノスケ?」
???③
---------------------
「えー?それマ?ほんとに警察がこっちに向かってるの?」
「ああ本当だよ。さっき警察から電話があったんだ」
「それもフェイクの可能性あるんじゃないの?」
「いいや、先ほど到着して麻袋太郎君のことも押さえ込んでいたからね」
「えっ……」
シャーロットがホテルに戻ると、鴉羽雨之助と一ノ瀬碧斗のそんな会話が聞こえてきた。
シャーロットはザっと血の気が引いた。
鴉羽雨之助はずっとシャーロットと共におり、今だって自分の後ろにいるはずなのに目の前で一ノ瀬碧斗と会話をしているのだ。
それに、麻袋太郎は押さえられてなどいないし警察が来た様子だってなかった。
振り返ると、自分と一緒にいたはずの雨之助はいなかった。
「なんなの、これ…?嘘よ。アメノスケは、こんな嘘をつく人じゃないもの…あなた、誰なの?」
そう言いながら碧斗と雨之助に近づいていたその時、青い顔をした亘貴と西園寺サラが現れた。
「みんな来てくれ……話があるんだ」
「私もなのよ!あのね、アメノスケが……」
???⑧
そうだ。あれは、雨之助の表情ではなかったのだ。
麻袋太郎が吼える中、鴉羽雨之助の遺体は消え去ってしまった。
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「…アメノスケ」
幼いシャーロットにも、状況が理解できてしまった。
立て続けに消えてしまった三人はいなくなってしまったのかもしれないと思い込もうとしていた。
しかし、冷たくなった鴉羽雨之助の姿を見た時に、現実を受け入れるしかなくなった。
「……もう、苦しまないでね」
シャーロットの記憶にこびりついた日廻と阿墨の悲鳴。
少しだけ見えた、暴れる天親の姿。
そして…静かに息を引き取っていた雨之助。
もう誰も苦しむことが無いよう、安らかに眠れるよう、祈っていた。
弔いの気持ちを込め折った折り紙の花を、そっと雨之助のベッドに置いた。
???⑩
[夜]
どこからか笑い声が聞こえる。
寒い。
目を覚ましたシャーロット・ワトソンは酷い寒さに震えていた。今まで、この場所でここまでの寒さを感じたことはなかった。
そして目の前には、白い小人がいた。
シャーロットの服の裾をクイクイと引っ張るそれに、シャーロットは恐怖を覚えた。
誰も欠けていなかった頃であれば、楽しく話しかけられただろう。
夢の中のように、遊んでいたかもしれない。
だが、夢の中でこの怪異が自分や友達に酷いことをしていたのも見ていた。
無条件に楽しく遊ぶことのできる相手では、無くなっていた。
そんな思いからシャーロットが俯くと、その怪異は気を悪くしたようでシャーロットを恐ろしい顔で睨みつけた。
怖い、逃げたい。
このままではみんなを巻き添えにしてしまうかもしれない。
そんな、様々な思いが入り交じり、シャーロットは走り出していた。
雨之助の顔が浮かぶが、頼れる彼はもういない。
しかし涙が浮かんだその時、涙が冷たくなるのを感じた。
凍っている。
逃げられてなどいなかった。
???⑭
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昨夜未明、△〇駅入り口にて鴉羽雨之助さん(34)が遺体となって発見されました。
遺体に外傷は見つかりませんでした。
警察は事件と自殺の可能性を追って捜査を進めています。
被害者は先月から行方不明となっていました。
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昨夜未明、△×駅入り口にてシャーロット・ワトソンちゃん(6)が遺体となって発見されました。
検死の結果、遺体は凍死だと判明しております。
警察は事件の可能性を追って捜査を進めています。
被害者は先月から行方不明となっていました。
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鴉羽雨之助 死亡END
シャーロット・ワトソン 死亡END
SCENE7 ②
手に深々と刺さった鎌や、首に開いた穴を見て碧斗は恐ろしくなり、立つことができなかった。
彼を見ていると碧斗は何故だか、この世界から消えてしまいたくなった来ていた。
このまま殺されるかもしれない恐怖におびえながら暮らすよりも、いっそここで自害してしまえば楽なのではないか。
帰ることに意味など、あるのだろうか。
そんな考えが頭をよぎった時に出てきたのが、麻袋太郎だったのだ。
「シッシッ、お前は襲っちゃダメワウ!」
麻袋太郎に促され、天親のようなそれは、忌まわしそうな目をしながら、背を向けて歩き出した。
「いやほんと勘弁だって……」
立て続けに怪異になった元仲間達に遭遇したこと。
また、二人も怪異による犠牲になったことにより『次は自分なのではないか』という恐怖から、碧斗は疲弊してきていた。
今はあまり考え事をしたくない碧斗は、少し睡眠を取ろうと布団を捲る。
そこからひんやりとした冷気を感じた。
「…ん?」
SCENE7 ⑤
先日、怪異の姿となった三人に会ったことを一ノ瀬碧斗が皆に報告すると、西園寺サラと亘貴も同様に、隙間女のようになった日廻夏八と姦姦蛇螺のようになった阿墨修二に会ったという事実が共有された。
それらが本当に本人たちであったのかはわからない。
だがなんとなく、碧斗は本人たちであるという予感を持っていた。
「それから、その…阿墨さんが俺に近づいてきたとき、麻袋太郎が阿墨さんを攻撃したんだ」
「そこも同じですの!?サラの時もそんな行動をされていましたわ」
麻袋太郎は、サラに対しては好意的に接していたことにここにいる者達は気づいていた。
だから庇ったのだろうか?
だが、貴に対してそのような態度でいたことはなかった。
「麻袋太郎ってさ、なんで今までの人たちは助けなかったんだろ」
麻袋太郎が遠吠えをすると遺体は消えてしまう。
一連の惨劇に麻袋太郎が関与していることは、ここにいる者達にも想像がついていた。
麻袋太郎がサラ、貴、碧斗の三人を守ろうとした可能性は確かにあるが、命を落とした五人のことを思うと信じ切ることはできない。
考えた時に改めて五人の死を思い返し、何とも言えない気持ちになった。
???①
西園寺サラは夢から醒めてからずっと悪寒を感じていた。。
電話の着信音が鳴る。
連日の恐ろしい夢もあり、電話の音が聞こえると余計に恐ろしい気分になる。
しかし、家族かもしれない。警察かもしれない。
なんにせよ、今外部からの連絡を無視したくないという気持ちがあった。
電話に出ると。
「私メリーさん。今、駅のホームにいるの」
これは夢で幾度となくかかってきたような電話だった。
ただ違うのは、伝えられた場所だった。
夢の中ではゴミ捨て場だったはず。
別人だろうか?と考える。
「夢でお会いしていた方でしょうか?もしもし?」
サラがそう答えるも、通話は既に切れていた。
すぐにまた着信音が鳴り、通話に応答する。
「私メリーさん。今、ホテルの前にいるの」
「ホテルの前ですか?わかりましたわ、サラがそちらに向かいます。少しそこでお待ちいただいて…あら?」
???②
やはり、すぐに切られてしまっていた。
ホテルの前であればすぐに会えるのではないか、と思考が働いた。
しかし、会っても良いのだろうか。夢の中でサラは一度、メリーさんに刺されていた。
そんなことを少し考えた時に、ふと阿墨の事件の話を思い出す。
『春夏冬レンを犠牲に生きようとした阿墨を見て、怪異が怒っていたような様子があった』
という、話。
その話が本当であれば、怪異は目の前で起こっていることを理解する程度の知能はあると考えられる。
怪異となってしまったと思われる鴉羽雨之助は、シャーロットや碧斗と会話をしていたという話もあった。
メリーさんも言葉を話していた。それならば、対話もできる可能性がある。
対話をすればこの状況を把握できるかもしれない。
うまくいけば、説得できるのではないだろうか。
そんな一抹の望みを抱いた時、着信音が鳴った。
「私メリーさん、今、あなたの部屋の前にいるの」
???⑤
やはり、会ってはいけないモノだったのだとサラが判断した時にはもう遅かった。
強い痛みを感じ、呼吸もうまくできなくなっていた。
部屋に向かってくる誰かの足音が聞こえた。
「え?何かあったの?……サラさん!?ちょっと、しっかりしてください!」
倒れこむサラに駆け寄る真琴と、その後ろで青い顔をして震える碧斗の顔が見える。
寒い。体が冷たくなっていく感覚だった。
メリーさんの顔を見ようと視線を向けると、メリーさんは少し笑っているように見えた。
だが、その顔は少し悲しそうにも見えたのだった。
アオーーン!
麻袋太郎の遠吠えが聞こえると、真琴の腕の中にいたサラの姿は消えてなくなってしまった。
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昨夜未明、××駅入り口にて西園寺サラさん(19)が遺体となって発見されました。
遺体は胸部に刺傷があり、警察は事件の可能性を追って捜査を進めています。
被害者は先月から行方不明となっていました。
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西園寺サラ 死亡END
SCENE8 ①
ずっと、何かを忘れている気がしていた。
忘れちゃいけない何かを。
ようやくわかった。思い出してしまった。
あのニュースは嘘じゃないんだってこと。
なんでみんながここに連れてこられたのかを僕はずっと忘れていた。
八尺様は僕を襲う気はなかったんだ。
だって、ずっと僕に対して優しい目をしていたから。
阿墨お兄さんが僕のことを姦姦蛇螺に襲わせようとしたとき、なんで姦姦蛇螺はあんなに怒っていたのか。
自分を見捨てた村人と同じことを阿墨お兄さんがしたから。
けど理由はまだあったんだろうな。
だってあの中には、"僕の従姉妹のお姉ちゃん"がいたから。
そうだ、僕はいなくなっちゃったみんなを取り戻したかったんだ。
いなくなっちゃった、大切な九人を。
SCENE10 エピローグ⑨
戻す方法。
先ほど会った、春夏冬レンの父親を見て、その方法は確かにあることが分かった。
だが、それは犠牲の上で成り立った方法だ。
死んだ人の命を救う方法。
そんなものが何の犠牲も無しにあるわけがない。
それは貴の真琴の中にも存在する考えだろう。
それでも、怪異と引きはがし成仏させる方法くらいは、あるのでないか。
UNDER SIDE①
ワウワウ!
ワンが人面犬だと思ってたお前、マヌケワウ!
ワンを見るとすーぐ人面犬だと言う奴がいてしつれーワウ!
せんじゅさまにそんなこと言っちゃダメワウよ!
そうそう、ワンことせんじゅさまの呼び出し方、教えてあげるワウ
用意するのは、
[黄色いお花]
[鈴]
それから、[願い事]ワウ!
まずこれは、子供の多くいる場所で行うワウ。
公園とか、学校が良いワウね!
持ってきた黄色いお花を持って願い事を口に出して唱えると、せんじゅさまが現れて素敵に願いを叶えてあげるワウ!
ワンが出てきたときに鈴も鳴らせば不幸も払ってくれるワウけど…レンくんは焦ってそれを忘れちゃったワウね!ワフワフ!
……まあ、[せんじゅさま]を呼び出して願いを言った人間はその後"幸せすぎて"失踪や自殺をしてしまう、なーんて不穏な続きもあるけどね。ワウワウ
UNDER SIDE②
怪異達についてワウ?
言ったとおり、この世界の怪異達は人間を取り込んで力を持っていたワウ!
人間を取り込んでからは存在をより強いものにできてたからあいつらはそれでよかったワウけど、戻すようレンくんに願われたらそうもいかないワウね~
ところで君たち、"この世界"で起こる事件や事故ってなんだと思うワウ?
人間の悪意や憎悪による事件。
疲れや寝不足、不注意などで起こる事故。
色んなものがあるワウけど、それって全部人間だけで完結する話ワウ?
レンくんの家族みたいに、怪異のせいで事故や事件に巻き込まれた人ってどのくらいいると思うワウ?
ワフフ!ワウはわかんないワウ!
まあでもあいつらみんなワンの言うこと聞いてくれてよかったワウ。
せんじゅさまは"そういう怪異"だから願われたことで力が働いたワウ?
それとも、怪異の中にいるレンくんの身内の意識が働いたかもしれないワウ?
あいつらはもう人ではないワウ!怪異ワウ!
どっちで考えてもいいワウよ!確かめようがないんだから。
…八尺様には驚かされたけど。
UNDER SIDE③
ジャック・オー・ランタンが大人を選んだときはびっくりしたワウよ!
まあ、先に子供を取られちゃってたからそうなるワウけどね。
レンくんが願ったからできたことワウ。
レンくんが願って、ジャック・オー・ランタンが力をつけていたからワンの力も働いた…ワウワウ!共同作業ワウ!
できなかったらどうしようかと思ったワウ。
ん?
あいつらはあの駅にいた怪異程の凶暴性はないワウよ。
君たちが夜な夜な見ていた夢で君たちを襲って、うまくいけばあいつらは力を得る…力は徐々に蓄積されて、力がたまれば晴れて現実でも憑りつくことができる。
そういう仕組みだったワウ。
思い当たるもの、あるワウよね?
全く、天親くんがあんなもの持ってなければもっと手っ取り早くできたのに!
まあ邪視とか姦姦蛇螺みたいな奴らはどうかわかんないけどね。
あの駅にいた怪異達は、目的が出来ちゃったから。あと、ちょーっとワンの力が働いてあんな感じだったワウね!
まあでも、もしあいつらの身内や知り合いがワンを呼び出して、同じように願ったら……ワフフ!どうなるか楽しみワウね!
SCENE10 エピローグ⑩
「ああ、そうだな」