勝海舟の父で不良旗本・剣客だった勝小吉の自伝『夢酔独言』は、軽妙な語り口などがかなり面白く、ときどき読み返している。
身持ちの悪さから、天保の改革の際についに42歳で隠居謹慎になり、子孫への戒めとして残した話。
幼少期の回想は、
「おれほどの馬鹿な者は世の中にもあんまり有るまいとおもう(中略)よくよく不法もの、馬鹿者のいましめにするがいいぜ」
から始まる。
(中央公論社『日本の名著第32巻』勝海舟 収録)
さっきYouTubeを開いたら、どういうアルゴリズムの結果か分からないが、おすすめに外国人がこれを"mediocre samurai"による当時の暮らしの描写として紹介している朗読動画が出てきて笑った。
無役だったからmediocreとしたのだろうが、コメントを見ると彼の生涯は全くmediocre(平々凡々)じゃないとか、小さい頃の出奔からの話が日本版ハックルベリー・フィンのようだとか、別の意味での感想も見受けられた。
彼が幼少期の冒険をどこまで正確に書きのこしたのかについては疑問だが、剣客としては確かにmediocreではないのだろうと思う。
日本文学の英訳は最近の関心事でもあったので、少し見てみた。英語でもやはり面白かった。
小泉八雲『東の国から・心』(平井呈一訳、恒文社、1975年)を図書館で借りてきた。
西洋の読者を対象にした日本についての論考などを集めた本で、その中で日本の学生(おそらく帝大時代)が八雲にしたという質問が面白かった。
「先生、イギリスの小説にはなぜ恋愛だの、結婚のことがあんなにたくさん出てくるのですか。そのわけを話してください。ーーどうも、わたしたちには、それが、ひじょうに、ふしぎに思われるのですがね」(p.98 『永遠の女性』より)
これと正反対の反応を、勝海舟の父、勝小吉による自伝『夢酔独言』を英語で紹介したYouTube動画のコメント欄でつい先日見たばかりだ。「彼は、恋愛や結婚、妻について全く語っていない」と驚きを示す英文のコメントだった。
言うまでもなく日本にも源氏物語等々はあるわけだが、その時代までの、日本と西洋における結婚に関する事情は全く異なる。
八雲は、以下のように考察している:
日本では結婚は簡単明瞭な自然の義務であり、親が必要な時期にいっさいをやってくれる。親の意向を無視し、当事者のなれ合いにより結ばれるような社会組織は、道義混沌たる社会状態にしか見えない。
よって、外国人が結婚に際しすったもんだ大騒ぎしなければならないというのが日本の学生には訳のわからないことなのだ。
でも語り口は日本語が断然面白い。英文だとその辺りが伝わってない気がする。