物思いに耽り眠れない夜。吐息だけが繊細な音楽のように響き渡る。冬の夜は寂寥さえもが白く冷たく。頬を伝う涙までもが白露のように清らかで。夜が深まり夢が深まる。美しい鳥に変身する夢を見た。遠い夜明けの光のように。儚い暁の星のように。叶わぬ夢と届かぬ想い。全てを捨てて鳥になりたい。私さえも心さえも捨てられるのに。最後まで捨てられない歌がある。最後まで捨てられない夢がある。それは切なく悲しい歌。それは深くて蠱惑的な夢。冬の夜の痛みはちぎれるようにあえかなもの。「恋ひ死なば鳥ともなりて君がすむ宿の梢にねぐら定めむ」

光と闇が踊る黄昏の空は今にも泣きそうなくらい切なくて。深い青い夜の空はどことなく寂しい。夢と現が溶ける夕暮れには一人でいる寂寥がひときわ心に滲む。真っ赤な紅葉の森が鮮明に焼き付いている瞼の裏。繊細な赤のグロスを人差し指で拭う。夜の時間に備えて心の澱を洗い流そう。夜の部屋に備えて優雅なモーツァルトを流そう。甘く流れる時間のかけら達。空から零れ落ちる夜のかけら達。あえかな涙が瞳を潤す。私の心は秋色に染まっていて。私の身体は冬に怯えている。季節に蹂躙されるままに。季節に束縛されるままに。秋の音が聞こえる。

熱を帯びた身体、夢を帯びた心。秋の夜の冷たさがそんな私を翻弄する。形のない身体、色のない心。秋の夜の静けさがそんな私を蹂躙する。透明な寂寥が部屋を埋め尽くし、秋色の切なさが空から零れ落ちる。優雅な悲しみが夜を埋め尽くし、繊細な痛みが空から零れ落ちる。夜は猛々しさと清々しさをまき散らすけれども、私の心はなびかない。秋は艶めかしさと神々しさをまき散らすけれども、私の心はさらわれない。夜のかけらはちぎれるような痛み。星のかけらはもがれるような孤独。秋が私の身体をそっと抱きしめる。夜が私の心をそっと抱きしめる。

闇夜が街を包みこみ私の心に忍び込んで来る。動物も植物も眠りに耽っている夜に官能的な夢が花開く。甘美な秘密も酷薄な嘘も全てが燃え尽きて。優雅な闇と仄暗い光が夜の底に沈んでいく。私は夜に閉じ込められたまま朝が来るのを待っている。私は夢に閉じ込められたまま現が溶けるのを待っている。華麗な紅葉が真っ白い雪に変わる頃、私の眠りの森に蝶が迷い込む。それは淡い夜明けに似たプレリュード。それは甘い記憶に似たプレリュード。私の心の流れる時間は繊細なまでに淋しくて。私の心に沈殿する記憶は儚いほどに切なくて。夜の音が聞こえる。

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