だから大きめのブックフェスが盛り上がっていることを証拠に「出版業界にはまだ希望がある!」みたいな空気になることに対して、常に疑いの目を向けている。盛り上がっているのは「そこ(=フェス会場)にいることを許された者」のみで、そうではない者は割を食っているだけだから。もちろんフェス会場内にも序列はあり、大きな利益をあげているところもあれば赤字になっているところもある。それらをすべて「自己責任=能力不足」で切り捨てても大丈夫だった時期はもう過ぎている。この業界(あるいは社会全体)にはそんな体力がないのだから。
出版社には値下げ販売の権利があるのに本屋にはない。しかも買い切りで仕入れていてもできない(から返品できないデッドストックが増えていく)。私はアナキストだし独立系書店的なあり方だから古本屋に売ったりしちゃうけど、大手取次と契約している一般的な本屋はそれもできない(こっそりやってるところはあるだろうけど)。
値下げも値上げもできず出版社の決めた定価でしか販売できないのは、価格調整という販売スキルのひとつを封じられているのと同じで、にもかかわらず「本屋の売り方に工夫がない」みたいなことを言われたりするのは納得がいかない。
出版社がブックフェスで売ってる値下げ本、ほとんどが製本時にできたB本とか本屋から返品されて汚れのあるもので、それでもいい読者がよろこんで買ってるわけだけど、それを本屋がやってはいけないことの理不尽さ。お客さんの不注意で汚れた本でさえも買い切りだと返品不可だったりするのだから、まさに「なにもできない」物質であり負債として店頭に残ることになる。
ブックフェス出店常連組は「みんなでやってる」つもりになってると思うけど、実際には数十社のみの世界だし、そのなかでも数社くらいしか利益は出せていなかったりする。本屋はそこにはいないし、当然ながら取次もいない。出版社からしたら直販の機会がないとやっていけないのかもしれないが(そしてそれは正しいが)、仮に自分が10の利益を出せるときでもそれを7にして3は他者に渡す、くらいの相互扶助をやっていかないと、この業界には先がないと思っている。その損した分の3はいつか誰かがまわしてくれる、それを信じられる、そういう世界を作らないといけない。