レンタルビデオ屋やってた時の話。弱小業界紙に「街のレンタルビデオ屋さんのおすすめ!」みたいな不定期連載コーナーを持ってたこともあったり、当時東映ビデオの営業のお手伝いみたいなこともしていたりして、少しだけ業界の人たちと交流あった時期のこと。伊藤俊也が津川雅彦主演で「プライド」というどうしようもない映画を作った時がちょうどその頃で、事前に内容を知った人たち中心にして上映禁止、反対運動が起きて、我々レンタルビデオ業界にも賛同求める声が来たんだけど、俺は当時の連載で、その動きに反対の意志を表明した。
プライドがどうしょうもない映画なのは薄々わかるが、見なければ評価は出来ない。そしてこうしたことを認めると、いつか真逆のことが起きることを容認することになる。今は反戦、政府批判の映画は作者の強い思いとスポンサーがいてくれさえすれば容易に作れるけども(当時はまだそういう空気だったんです)、いつの日か社会状況が悪化してプライドみたいな映画ばかりになった時、これが前例となり反戦、政府批判映画がいの一番に潰されることになる。それは戦前、戦中の日本エンタメ界を見れば瞭然ではないか。悪き前例は作らないこと。そしてできあがった作品を容赦無く批判すること。今求められているのはそれではないのか?と書いたわけである
因みにイリバーシブル・ダメージは2年前に読んでいる。あの仮説をどうとるか、でこの本の評価は決まるんだろうけど、ただその評価もいろいろ複雑で、例えば左派の心理学者クリストファーファーガソンは、出版当時否定的な書評を書いてたけど、その後、あの当時は下手に肯定すると失職の恐れがあったので、踏み込んだ評価ができなかったと反省しているように、それほどまでに左派側からの圧が強かったことは頭の片隅に入れておくことをお勧めしたい
個人的にはその後に出たザカリーエリオットのbinary、そしてタビストックスキャンダルを抉ったTime to thinkと読み繋いでから、再びイリバーシブル・ダメージを読み返すと、初読時とはちょっと印象は変わったかな、良い意味で。まあぶっちゃければシュライアは好きではないですよ、昔から。平素の意見もかなり違う。特にイスラエルへのスタンスに関しては真逆ですし。ただこの本では、当事者の声をよく拾ってるし、アメリカ国内の草の根で起きてることがかなり掴めるから、ここにきてデトランスした人たちからの訴訟が多発していた理由もよくわかる。決して読んで損はない本です。
余談だが、クリストファーファーガソンは、現在「若年層への性別肯定治療は科学的根拠に基づいていれば構わないが、今はその科学的根拠が見当たらない」と至極穏当なこと言っている。個人的にこの問題の落とし所は、ここだと思うんだよな。「未成年への性別肯定治療、及びその教育はリスクが大きすぎるし、科学的根拠も極めて脆弱なので行わない。タビストックの例もあるし。」しかしながら、こんな穏当な提案を議論しようとするだけでも差別者扱いされるのが今の日本であり、そしてそれを尖兵として率先して行ったのが左派リベラルを自認する物書きや編集者だった、とわかったのが2023年12月5日の今日という日であった。