「講座社会学」の第4巻の責任編集の関谷直也という人、慶応SFCから情報学環へという「お決まり」のコース、そして基本、政府・東電側の委員を歴任している。
本人の担当論文名も、そのものずばり「「風評」の社会学」である。
関谷さん、社会心理学・防災、広報を専門とするらしい。いやはや。
ところで、この間「環境・災害・技術」をテーマとするが、現在、世界を燃えさせている on fire、地球生態系の危機や工業文明、資本主義と生態系を扱う論文が1本も見当たらないのはどういう訳だろう。
さらに言えば、日本の高度経済成長によってもたらされた各種公害の歴史と現在についても扱わない方針のようだ。
水俣病などの公害の際も、政府・通産省側はチッソの産業排水と水俣病の「病理学的因果関係は証明されていない」として、延々と対策を(意図的に)放棄した。
熊本大学医学部の原田正純さんは、この政府と医学部の主張に異を唱え、大学に昇任を棒に振ったが、それは原田さんの「名誉」である。
ちなみに公害と企業城下町、共に環境経済学者の宮本憲一さんの命名で、日本語固有。海外では「産業汚染」になる。
宮本さんの造語は政府と大企業の構造的癒着という日本的現実を照射する概念であるが、あまりにも的確なために普通名詞になった。
第4巻で扱われている「環境」問題について、前のバージョンの講座ものではどう扱われているのか、「岩波講座 現代社会学」シリーズを見てみました。
『25 環境と生態系の社会学』(1996年)が似た趣旨の巻だと思うのですが、目次を見てあまりの違いに驚きました。
1 環境の社会学の扉に 見田 宗介
2 環境問題と現代社会 宮本 憲一
3 生活のなかの公害と社会 市川 定夫
4 核の社会学 高木 仁三郎
5 エビの社会学 宮内 泰介
6 アメリカ環境運動の経験 高田 昭彦
7 日本の環境運動の経験 飯島 伸子
8 エコロジー批判と反批判 丸山 真人
9 適正技術・代替社会 田中 直
宮本憲一氏、高木仁三郎氏(原子力資料情報室)など、企業や政府を独立の立場から批判する方たちの論考がしっかり載っています。
なによりも「公害」という言葉がちゃんと使われています。
「環境」「エコ」という言葉が頻繁に使われ、「エコな暮らしをしよう」みたいな言い方で問題が個人化されるようになってから、「公害」という言葉をよく使っていたときには見えていた企業や政府の責任がどんどん見えなくされているような気がしています。
「公害」という言葉やその言葉が持つ「姿勢」を、私たちは決して捨て去ってはいけないと思います。 [参照]