『名探偵コナン 黒鉄の魚影』への批判/ネタバレ有
作中の「ピンガ/女装男=骨格認証システムを恐れる」という構図は、トランス否定あるいは反トランスの表象として強烈に作用する。
ピンガがグレースであると明らかになるシーンでは、典型的な「まやかし型」演出がなされる。
「まやかし型」とは、クィア表象に関する専門家であり生物学博士でもあるジュリア・セラーノが提唱しているトランス/クロスドレッサー表象の類型の一つである。「まやかし型」は、女性としてのパス度の高さから、ショッキングなどんでん返しを引き起こす役(悪役であることが多い)として使われるキャラクターだ。
「『まやかし型』は始めの頃こそ『本物の』女性だと思われるが、遅かれ早かれ、羊の皮を着たオオカミ、つまり偽りと現代医学技術による幻影であることがばれ、大抵その結果、制裁を受ける。」(2023, ジュリア・セラーノ著, 矢部文訳,『ウィッピング・ガール』, サウザンブックス社, p.67.)
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『名探偵コナン 黒鉄の魚影』への批判/ネタバレ有
しかも、ピンガのブラックヘア(ロックス/ブレイズ)は文化盗用的だ。文化盗用でないならば、ピンガはアフリカ系だということになり、「黒人男性=女装した男性=社会脅かす危険な存在」という二重ステレオタイプによる演出がなされていることになる。この問題の根深さについても、すでに数多くの批判がなされている。(アクセスしやすい媒体を例にあげると、『トランスジェンダーとハリウッド』では専門家が人種差別と性差別の交差例としてこれを解説している。) また、『黒鉄の魚影』にはクライマックスで見どころの一つに人工呼吸シーンがあり、これは医療行為/救命措置のセクシュアライズ/ロマンティサイズであり、これにも非常に問題があると思っている。 3/3