『名探偵コナン 黒鉄の魚影』への批判/ネタバレ有 

昨年のコナン映画『名探偵コナン 黒鉄の魚影』が地上波放送されて好評なの、暗澹とした気持ちになる。
本作には、ピンガという悪人(黒の組織という反社会組織に属する犯罪者)が、女装してグレースという女性になりすまし、ターゲットの女性に近づき機密情報を得て、テロリズムを企てるという筋書きがある。
今なおステレオタイプど真ん中のqueer-coded villain(クィア性を付与された悪役)を登場させ、しかも「女装した男が社会に危害を加える」という手垢の付いた話を大々的に発信するのは、害悪でしかないと私は思っている。
さらに、本作はキーアイテムとして「老若認証システム」という、特定人物の過去と未来の姿を感知する人物認証システムが登場する。特定した人物の骨格から、その人物の年齢が変わってもその人物を特定できるというもので、実質的には骨格認証システムである。作中では世界各国の警察機関がこのシステムを共同開発されている。
このシステムは悪人にとって非常に都合が悪い。もちろんピンガもその一人で、ピンガはこのシステムの破壊を目論んでいる。「女装した男」は骨格認証システムに太刀打ちできず、「真の姿」が白日のもとに晒されてしまうからだ。 1/3

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『名探偵コナン 黒鉄の魚影』への批判/ネタバレ有 

作中の「ピンガ/女装男=骨格認証システムを恐れる」という構図は、トランス否定あるいは反トランスの表象として強烈に作用する。
ピンガがグレースであると明らかになるシーンでは、典型的な「まやかし型」演出がなされる。
「まやかし型」とは、クィア表象に関する専門家であり生物学博士でもあるジュリア・セラーノが提唱しているトランス/クロスドレッサー表象の類型の一つである。「まやかし型」は、女性としてのパス度の高さから、ショッキングなどんでん返しを引き起こす役(悪役であることが多い)として使われるキャラクターだ。
「『まやかし型』は始めの頃こそ『本物の』女性だと思われるが、遅かれ早かれ、羊の皮を着たオオカミ、つまり偽りと現代医学技術による幻影であることがばれ、大抵その結果、制裁を受ける。」(2023, ジュリア・セラーノ著, 矢部文訳,『ウィッピング・ガール』, サウザンブックス社, p.67.)
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『名探偵コナン 黒鉄の魚影』への批判/ネタバレ有 

しかも、ピンガのブラックヘア(ロックス/ブレイズ)は文化盗用的だ。文化盗用でないならば、ピンガはアフリカ系だということになり、「黒人男性=女装した男性=社会脅かす危険な存在」という二重ステレオタイプによる演出がなされていることになる。この問題の根深さについても、すでに数多くの批判がなされている。(アクセスしやすい媒体を例にあげると、『トランスジェンダーとハリウッド』では専門家が人種差別と性差別の交差例としてこれを解説している。)
また、『黒鉄の魚影』にはクライマックスで見どころの一つに人工呼吸シーンがあり、これは医療行為/救命措置のセクシュアライズ/ロマンティサイズであり、これにも非常に問題があると思っている。 3/3

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