(2)反啓蒙は、18世紀の哲学を上書きした19世紀の哲学にルーツを持ちます。「理念より現実の覇権が大事だよね」と考える覇権主義、「普遍的な倫理なんて嘘っぱちだよね」と考える虚無主義は、現代にも影響力を持っています。20世紀に流行った「善悪や価値観なんて、みんな相対的だよね」という相対主義も根強いものがあります。
(3) の資本主義は現代の社会・経済の基礎を作っています。企業活動は私たちが手にするほとんどの財とサービスの供給源です。一方で、資本主義を規制せず放任すれば貧富の格差が開き続け、また公害、地球温暖化のような「負の外部性」が拡大することも分かっています。
ドイツの哲学者マルクス・ガブリエルは「新しい啓蒙」と呼ぶムーブメントを作ろうとしています。具体的には、(1)人文学の新しい運動を起こし、また (2) 企業に哲学者を送り込もうとしています。
「新しい啓蒙」の内容は、18世紀の啓蒙思想をよみがえらせ、19世紀以降の反啓蒙を克服し、現代の資本主義を社会と調和する形態にアップデートしようとするものです。その実践として「倫理資本主義」あるいは「エコ・ソーシャル・リベラリズム」を唱えます。本書は、倫理資本主義の大枠を記した本です。
(続く
参考:
マルクス・ガブリエルが提唱する「新しい啓蒙」のパンフレット(英文)。人文学の専門家を対象としたもの。CC BY-SA4.0で公開。Kindle版は110円。
Markus Gabrielほか、 Towards a New Enlightenment: The Case for Future-oriented Humanities (The New Institute Interventions) 2023/4/25
https://www.amazon.co.jp/Towards-New-Enlightenment-Future-Oriented-INSTITUTE-Interventions-ebook/dp/B0BH2HS8NP?__mk_ja_JP=カタカナ&crid=OF1ORB7S613Y&dib=eyJ2IjoiMSJ9.Rp2Va9_m4nWNtp8wOqqtDkM_HyhHyZOSUqkQScowIvZa4aChFVb3Rq6cnqdysw9kTpi8Dkug5gPqxpmfq3JsjhVBMi90hVdr4tmTWD7wdJvaiYCfWflcGSRK16TUPK6pcpX7q8DSL_5OTp7xXiRyYhdry-VEq6z9ibCj1H6GQKNnNTgznfMAt01pdSBmuudr2mVCpS0Dv3P5cWDbJWn9bGeUnvuiW8H7P64PniKWl8puL37Dmr45wDhC3vHQrFVrPJEui7dP_uDG7mpg0pDWt_P6dLfxakMFbTj2qi3A0Lo.HkmmLXfTfprdwSJTvJO8Sdksu3Jvp4jjVZQfbPwl50A&dib_tag=se&keywords=Towards+a+New+Enlightenment:+The+Case+for+Future-oriented+Humanities&qid=1721652397&sprefix=towards+a+new+enlightenment+the+case+for+future-oriented+humanities,aps,152&sr=8-1&linkCode=sl1&tag=akiohoshisnot-22&linkId=026ea730b5a08c7ce473f775a6ae945d&language=ja_JP&ref_=as_li_ss_tl
なお、「新しい啓蒙」について述べた哲学の専門書は別に出版されていますが、日本語訳はまだです。
簡単に紹介するなら、人文学の運動としての「新しい啓蒙」は、「真偽を判定できる道徳的事実の存在」を否定する態度(虚無主義、相対主義)を乗り越え、カントの倫理学を機能させ、さらにシェリング、フッサールらドイツの哲学者による思想を統合し、現代に蘇らせようとするものです。
これらの学者の思想(特にカント倫理学)は現代の英語圏の哲学者の間では無視されたり否定される場合が多いのですが、「新しい啓蒙」はそうしたトレンドへの哲学者マルクス・ガブリエルからの反論、そして挑戦という側面もあります。
私の立場では、企業活動と人権をうまく結びつける上で啓蒙思想と資本主義の協調が欠かせないわけですから、この「新しい啓蒙」は非常に注目したいと思っています。
そして本の内容は、ぜひ実物で確認してみてください。