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【ほぼ百字小説】(5376) 坂の途中に住んでいるから、坂の上の劇場からは自転車を漕がずに帰宅する。いつもそうしている。なのに、坂を登って劇場まで行く記憶は、自分の中のどこにもない。この坂、あの劇場の舞台の上に作られた坂なのかも。
  

【ほぼ百字小説】(5375) 坂の途中に住んでいるから、いろんなものが転げ落ちていくのを見る。たまにじりじりと登っていくものもあるが、何日か後でそれが転げ落ちるのを見たり。ではあの転げ落ちていくものは皆、登っていったものなのかな。
 

【ほぼ百字小説】(5401) 空間が足りないので縮小化という計画が立てられたが、さすがに無理があるようで、体積はそのままで細長くする、ということになったらしい。そんなわけで我々は、細く長く生きる棒の束として、恒星間宇宙を渡るのだ。
  

【ほぼ百字小説】(5400) オオサンショウウオのお祭に行った話を聞いた。オオサンショウウオを祭るお祭、ではなく、オオサンショウウオたちが行っているお祭、と気づいてからは、人間のコスプレをしたオオサンショウウオとして過ごしたとか。
  

【ほぼ百字小説】(5399) 亀時間を計算することはできても、亀時間を生きることはできない。我々には決して手がとどかないそんな感覚を昔のヒトは、亀は万年、と表現したのだろう。ヒトによる考察など、所詮は亀上の空論にしかなり得ないが。
  

【ほぼ百字小説】(5398) 妻が旅立っていった、などと書くと、死んだと勘違いされる、というのは、あるあるなのかどうなのか。なんにしても妻はたまにふらりと旅立っていくから、そういうのはどう書けばいいのか。今朝、妻が旅立っていった。
 

【ほぼ百字小説】(5397) 鶴と亀とでおめでたい。翼あるものと甲羅あるもの。そして双方とも、恩返しをしてくれた、と伝えられているが、それでヒトが幸せになれたという話は聞かないし、そもそもそれを恩返しと思うヒトがおめでたいだけか。
  

【ほぼ百字小説】(5396) 人間を組み合わせて作られていることが目視でもわかるほどの低空を飛び過ぎていった。ボーイング747に似たその胴体も翼もエンジンも人間で出来ているが、機体の内部は空洞だから、必要な人間の数は意外に少ない。
  

【ほぼ百字小説】(5395) わりと有名な事件の現場だったと住んでから知った。回ってきた現場検証写真にあった被害者の人型は、自分が寝ているのとぴったり同じ位置。いろいろ腑に落ちたから、それを知ってからは死んだようにぐっすり眠れる。
 

【ほぼ百字小説】(5394) 天使と亀の本が出る。その見本が送られてきた。そもそもこれは、天使によって始まった。そして、亀のお陰で続いている。もちろんこれが出せるのもそうだろう。天使の飛行と亀の歩行。その軌跡が百字で連なっている。
 

【ほぼ百字小説】(5393) なんでもいいから好きなものを見つけられたら、それだけで充分、と娘にはずっと言ってきたが、そうか、もう見つけたのか。やっぱり母親の影響のほうが大きいのかなあ。クロッキー帳を買いに行く娘の背中を見て思う。
 

【ほぼ百字小説】(5392) こんなところへ何をしに来たのか、橋のたもとで考えている。ただ橋の様子を見に来ただけなのかも。だとしたら、橋を渡ってここへ来たのか、それともこれから橋を渡るのか。これは間違えられないぞ。大違いだからな。
 

【ほぼ百字小説】(5391) 私はすごくおもしろいと思うんだけど、こんなのおもしろがる人はいるのかなあ。物干しで亀に話しかけている。まあ亀にしてみれば、勝手に書かれてそんなこと聞かれても、だろうなあ。うん、わかってる、何も言うな。
 

【ほぼ百字小説】(5390) 子供の頃には行けたあそこへは、もう行けないのかな。嫌なことがあったとき、滅茶苦茶に歩いて歩いて歩いて、顔を上げるとそこにいた。でも、帰りはすぐ知っている道に出た。大人になるとそんなことはできなくなる。
 

【ほぼ百字小説】(5389) 最近少し様子がおかしいなと思っていたら、蛹になってしまった。この状態がいったいいつまで続くのかわからないが、蛹を触ってはいけないことは子供の頃の経験でわかっている。そういうのは、何の蛹でも同じだろう。
 

【ほぼ百字小説】(5387) 五冊揃って千篇じゃー。イエロー、ブルー、ピンクに続いて、グリーン、オレンジ、と登場したが、その中に、リーダーを務められそうなレッドはいない、というあたりも百字千体らしくはあるか。五冊揃って千篇じゃー。
 

【ほぼ百字小説】(5386) 夜陰に乗じて棄ててきたはずが、翌朝には帰ってきていて、見慣れた四角い画面には、不法投棄して走り去る後ろ姿の映像が映し出されている。弱みを握られてしまったな。知恵のつき過ぎたテレビと手を切るのは大変だ。
 

【ほぼ百字小説】(5385) 鮫の背鰭に擬態した陸生の生き物。そんなものが、いかなる進化の過程で生まれたのか。それは依然大きな謎ではあるが、とある映画スタジオが遺伝子操作で作った、という陰謀論が今のところいちばん説得力があるかな。
 

【ほぼ百字小説】(5384) 草原をかき分けて黒い三角形の背鰭がまっすぐ迫ってくる。バーベキューをしていた人々は、食材を放り出して逃げまどう。陸鮫と呼ばれるそれは、鮫の背鰭に擬態した雑食性の生き物で、あるのは背鰭に見える部分だけ。
 

【ほぼ百字小説】(5383) 放物線を描いている。ここがその放物線の頂点で、だからこの先は落ちていくだけ。まあ、ここまで来れた、と言えるし、ここまでしか来れなかった、とも言える。放物線なのだから、最初からすべてわかっていた、とも。
 

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