小説を書いたりしてます。
【ほぼ百字小説】(5512) 数ヶ月後にはこれになるのか、と思いながら読んでいる。目を通しているだけで、具体的にどうやってそれになるかは決めていない。すっごい面白いことをする、と書いてある。二度見する。えらいことになった、と思う。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5511) 運動している分子の速度を目視してより分けることで冷蔵庫内を低温に保つだけの簡単な仕事。そんな募集広告に釣られて悪魔の下請けというまさに闇バイトに引き込まれたのだった。ホワイト家電案件と思ったのになあ。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5510) 同じ時間を繰り返す。繰り返すことでぎくしゃくした流れはなめらかになるが、なめらかであればいいというのでもなく、などと考えながら、カーテンを開けると窓の外はもう夜だ。時間に置いていかれた気分でまた明日。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5509) いつも芝居の稽古に使う区民センターに大きな古いオルゴールがあって、でも時間が合わなくて、まだ音を聴いたことがない。稽古が始まる前に見て、稽古終わりでまたそれを見る。公演が終わったら、聴きに来ようかな。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5508) この先も書き続けるには生きていかねばならないし、生きていくには食っていかなければならず、そして食っていくには、などと考えたところでどうなるものでもなく、まてよ、死んでも書き続けられるならすべて解決か。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5507) 亀の縁としか言いようのない縁で集まった人たちとそれぞれが持っている亀の話を交換している。我々は亀によってこの場に集められたのだろう。亀の甲羅の縁側のようなあの部分に並んで腰かけ、亀の縁に感謝している。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5506) 空白にするか、暗黒にするか。見えなくする方法は、大きく分けてその二つ。見たくないのか、見られたくないのか。見えなくする理由も、その二つか。この世界の始まりがどの組み合わせであったのかは、今も見えない。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5505) 子育てをする生き物だが、育てるのは自分の子である必要はないらしく、だからうまくやれば人間でも育ててもらえる。そんなふうにして育ててもらった者は、自分の子もそうやって育ててもらいがち。それの何が悪い?#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5504) 工場に呼び出された社員は、自動人形に改造される。社内にそんな噂が流れ、呼び出されたことのある社員を見て、噂だけではないな、と感じている。もしかしたらずっと呼び出されないかも。今ではそれがいちばん怖い。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5502) 朝からの冷たい雨で亀の甲羅もすっかり冷え、何も食べない動かない。昨日の昼間には、あんなにばくばく食ったのに。甲羅の中で、夏と秋がめまぐるしく入れ替わっているようだ。いや、甲羅のない身にはわからないが。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5501) 稽古場だから本番の舞台にあるはずの階段などなくて、でもそれがある態でやっているうちに、ありもしない階段を上がったり下りたりできるようになって、本番でもそうすることになり、結局それがいちばんの見せ場に。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5500) 昨日は朝から、何年ぶりかでやってきたテント劇団の撤収の手伝いに行き、夕方からは自分が出る芝居の稽古。今日は、前に何度も出してもらった劇団の何年ぶりかの公演を観に行く。狭くて広い世界で同じ風の中にいる。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5499) 秋空の下、舞台が解体されるとぬかるみが現れた。すべては、このぬかるみの上で行われていたわけか。テントの周囲のぬかるみはもう跡形もないのに、テントの大きさのぬかるみが残っている。まもなく消えるだろうが。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5498) 言葉を転がしつつ言葉と共に転がっていく様を見ながら、いつのまにか転がされていることに気がつく。転がし転がされてたどり着くその先がどこなのかは、転がす者にも転がされる者にも、そして言葉にも、わからない。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5497) 暗い広場には傘の列ができている。足もとはぬかるんでいて、ぬかるみの向こうにはテント。テントの中から見るぬかるみは街灯を反射して銀色に光っている。満員のテントを満たす雨音は、開演前の音楽のようでもある。#マイクロノベル #小説
ほぼ百字小説】(5496) 集まったのは、骨を組み立てるため。ばらばらに梱包され運ばれてきた骨をこの広場でもとのように繋ぎ合わせる。広場いっぱいの巨大な骨組みが完成し、あとは肉付けするだけ。誰がどの部位になるのかでいつも揉める。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5495) またあのテントがやってきた。夜になると光と音と熱に満たされるあのテント。そういえばいちど、妻があれについて行ってしまったことがあったなあ。しばらく帰って来なかった。あれはもうひと昔も前のことだったか。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5494) またあのテントがやってくる。前と同じ場所に舞台が作られるところを見物がてら手伝いに。なんにもできない私でも言われるままに動けば、かちぱちきりりと見る見る世界が組み上がる。あとはここに夜をかぶせるだけ。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5493) 外に出ると満月。不思議なほど明るくて丸いそれは舞台の照明のようで、どこか作り物っぽい。そんな月の光で地面にくっきり落ちた自分の影もまた作り物っぽく感じられるのは、さっきまで芝居の稽古をしていたせいか。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5492) この長い下り坂の果てが見えないのは、そのあたりがもうすっかり夜で、にもかかわらず灯りがひとつもないから。引き返したほうがいい、という者もいるが、これは下り坂であって上り坂ではないのだから、それは無理。#マイクロノベル #小説
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