小説を書いたりしてます。
【ほぼ百字小説】(5439) 幽霊の缶詰を持っている。幽霊はその金属を透過することができないから、缶詰にできるのだ。何の幽霊なのかは開けてみるまでわからないがそれでも、自分はいつでも幽霊を出せるのだと思うと、心がすこしは休まる。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5438) これまでの自分ではないものになる練習。生まれる前にこんなことをしなければならないなんて。まだまだうまくはやれないが、繰り返しやればだんだんできるようになることはわかった。二足歩行はだいぶうまくなった。
【ほぼ百字小説】(5437) 皆で集まって、荒れ地に埋もれているらしい何かを掘り出そうとしているのだが、なんのためにそんなことをするのかがわからない。まあそれをするために掘り出されたのだから、そんなこと考えなくてもいいのだろうが。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5436) 墜落した異星の船に乗っていた異星人を捕獲して殺害し、その船から得たもので豊かにはなったが、今もその仲間が探しにくることに怯えていて、我々がファーストコンタクトに失敗するのはそのせいだと分析されている。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5435) 毎日、亀を見ている。それでわかるのは、毎日、亀に見られている、ということ。物干しで、物干しのどこかにいるはずの亀を探し、見つけたときにはもう亀と目が合っている。亀に観測されることで存在しているのかも。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5434) 本物そっくりに作られた月面で仕事をした。月面だから宇宙服を着る。それを撮影する仕事をする者たちは宇宙服を着ていない。宇宙服の中からそれを見ていた。そこが本物の月面そっくりだとまだ誰も知らない頃のこと。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5432) 身体に植物を生やすようになった、というより、植物の根によって肉体組織の崩壊を抑えてもらっている、というべきか。そのせめてものお返しとして、いずれ自分が埋められるいい場所を動けるうちに確保しておかねば。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5431) 水平線にずらり並んで、もこもこと成長を続けている。少し前まではヒトに似た形が主流だったようだが、今はもう別の形のほうが多くて、ヒトは隅に追いやられている。まずはここで試すのかな。我々は早すぎたのかも。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5430) 目がふたつあるのは、狸が化けた台風だから。ふさふさの尻尾が出ているのも、狸が化けた台風だから。ふらふら進路の定まらない千鳥足も、そのせいだろうな。では、この雨の正体は――。それは考えないことにしよう。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5429) 台風の真っ只中での本番、あるいは中止を覚悟していたが、風はないし、朝は降っていた雨もやんでいる。もちろんそれは大助かりなのだが、なんだか狸にでも化かされたような気分で、その気分のまま狸の話を朗読する。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5428) もちろん亀は鳴かないし歌わない。亀の歌とは、亀が歌うのではなく亀の側にいる者が亀のことを歌う歌なのだ。亀を見て亀のことを歌わずにはいられなくて歌う。そういう意味では、亀は鳴く、とも、歌う、とも言える。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5427) 亀を歌った歌だ。物干しに暮らす亀の速度で洗濯物を干しながら、亀の中を亀の速度で流れる亀の時間を歌った歌。現実には鳴かない亀が、「亀鳴く」という言葉の中でだけ鳴くみたいに歌うこと、という注意書きがある。
【ほぼ百字小説】(5426) 気がついたら、突堤の先に立っていた。灯台としてここに送られてきたらしい。灯台としての役目を終えるまでずっとここに立ち続けねばならないのだな。灯台がなければ、迎えの船がここに来ることもできないのだから。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5425) 大きな門であり橋でもあった建物が取り壊された後の更地で拾ったのだ。あのときはまだわからなかったが、それがジグソーパズルの最初のピースで、拾ったのではなく拾われたのか、と今はそのパズルの中で思っている。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5424) 甲羅にするか、翼にするか。どちらか選べと言われて、迷いに迷い、考えに考えた挙句、今もどちらかに決めることができないままで、それでこんなことををしているのかなあ。甲羅でも翼でもないものがこれなのかもね。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5423) 亀と天使が似ていることは、こうして並べてみるまで気づかなかった。なんでも並べてみるものだな。亀と天使がじつは同じもので、我々はその同じものの別の側面を見ているだけなのかも、という仮説の検証はこれから。 #マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5422) 個々の蟻にはたぶん自意識はないが、蟻塚全体をひとつの生き物として見れば自意識のようなものが感じられる。この私とは関係なく、そんなふうなものになったらおもしろいと思う。あ、百字小説の話ね、これも含めて。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5421) 猫のように見えるが、猫の形の夜なのだ。またすこしその数が増えて、またすこし夜に近づいた。星のように見えるのは猫の形の目の部分で、それらが渦巻いて星雲を作っていることから、猫の形の夜たちの運動がわかる。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5420) 鳥のように見えるが、鳥の形の夜なのだ。またすこしその数が増えて、またすこし夜に近づいた。翼のある夜の群れが、数を増しながら西から東へと移動していく。それがこの惑星の夜の正体。朝の正体はまだわからない。#マイクロノベル #小説
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