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【ほぼ百字小説】(5322) 雲の峰を登っているとき、それは雲の峰だとわからず、色の無い岩山の映像の中にいるように感じる。ある程度まで登って振り向いて初めて、それが雲の峰として見える。普段、自分がその一部だとわからないのと同じか。
 

【ほぼ百字小説】(5321) プロジェクションマッピングでいくことにしました。高いビルの壁さえあれば大丈夫。森も公園も欲しいだけいくらでも作れます。そして、その中でみんな幸せに暮らしましたとさ。そういうプロジェクションマッピング。
 

【ほぼ百字小説】(5320) あれれ、今まで間違っていたのか、と今さら知ったが、まあ今からでも、と歩きかたを直してみる。なるほどこうだったのか、と納得して走りかたも。そうなると同じ流れで、泳ぎかただって変わってくるし、飛びかたも。
 

【ほぼ百字小説】(5319) いっしょに落下することで、見かけ上は重力をキャンセルできる。もちろんその分の重力はあとで受け取ることになるが、それまではこうして宙に浮いていられる。あ、もうすぐ地面。じゃあ次は、時間を引き延ばす方法。
 

【ほぼ百字小説】(5318) 人の形をした白い花が黒い地面に散っていて、それを隣の枝の棘に突き刺せばいい。見本は無数にある。名前は書いても書かなくてもいいのか。こんなとき、相手の名前を書きたい人と書きたくない人とに分かれるようだ。
 

【ほぼ百字小説】(5317) 発掘された骨を組み立てて作った骨格に肉付けすることで復元されたのだと聞かされていたが、最近になってその骨が捏造されたものだったと判明してしまって、この先は存在しない生き物として生きていくことになった。
 

【ほぼ百字小説】(5316) 踏み抜かないよう歩いていて、だからあの奇妙な足運びなのか。なら、そんなところ歩かなければいいのに、と思うが、踏み抜かず歩けることで利口さを示せると考えているらしい。まあ歩くよりそっちが目的なんだろう。
 

【ほぼ百字小説】(5315) たとえば、あるはずのものがなかったり、ないはずのものがあったり。そんな不思議は日常的に起こるが、きっと合理的な説明があって、でも、もういない人がいる、というこれは、説明抜きでありがたく受け入れようか。
 

【ほぼ百字小説】(5314) 水槽になった。いや、馴染みになった何匹かのお陰で水槽だったと気づかされたのか。すいっ、と境界面、つまり皮膚、に近づいてきたなと思ったら、金魚のように身体を翻して見えなくなった。もっといい水槽になろう。
 

【ほぼ百字小説】(5313) 妻と娘はいっしょに遊びに行ったり、同じアニメやドラマで盛り上がっていて、わかってないな、という顔をされたり、実際わからない話をよくしていて、まあ身近に知らない世界があるのはいいことだよな、と亀に話す。
 

【ほぼ百字小説】(5312) 撫でさせてくれそうな黒猫がいた、と妻が言っていたが、近所に黒猫なんていたっけ。あれか、と思ってよく見たら、前から知っている不愛想な白黒の斑猫だ。見せかたで黒猫に見せられるのか。あいつ、使い分けてるな。
 

【ほぼ百字小説】(5311) キリンのようだがクレーン。もともとキリンに似ていたところに、キリンを真似て歩くようになったのだから当然か。キリンに倣って高いところにあるものを食べている。それは昔、クレーンで高いところに置いたものだ。
 

【ほぼ百字小説】(5310) ひさしぶりの洗濯日和。物干しで待っている亀に煮干しをやると、くわえてうろうろして落として、また足もとに来るから、拾ってまたくわえさせて洗濯物を干しているとまた落として――。これ、いったい何のゲームだ。
 

【ほぼ百字小説】(5309) ついに超巨大ドミノ倒しの準備が完了。すべてがこのためだったのを知っている者も知らない者もいるが、目的は達成された。この惑星の生命の発生も進化も文明もすべてはこのため。そして今、最初のドミノが倒される。
 

【ほぼ百字小説】(5308) 万年生きる存在が、その万年目を百年も生きない存在といっしょに迎えることもあるだろう。百年も生きられなくても、万年目を迎えるところに立ち会うこともあるだろう。その万年の孤独を想像することもできるだろう。
 

【ほぼ百字小説】(5307) 大地だとばかり思っていたが、揺れ過ぎていたから船だったことがわかり、船だと思っていたが、地面みたいだから泥船だったことがわかり、噴水だと思っていたそれが吹き上がり過ぎていることには納得したが、もう遅い。
 

【ほぼ百字小説】(5306) どうせ変わらない、くだらない、興味がない、関わるのは馬鹿馬鹿しい、と棄権を呼びかける。自らの意志で積極的に棄権したことを示すために、白票を投じることを薦めたり。どうせ変わらない、と信じ込ませるために。
 

【ほぼ百字小説】(5305) 近所の動物園で人間が動物を演じる芝居が行われているので観に来たが、あいにくの雨。動物園は閑散としていて人間より動物のほうが多そう。人間を演じる動物が動物を演じる人間を演じている芝居みたいに見えてくる。
 

【ほぼ百字小説】(5304) 水溜まりから何かが出てくる。前は首から上だけだったのが、今は胸のあたりまで出ていて、両手も使える。だからジャンケンをしよう、としきりに誘ってくる。してもいいけど離れたままでね。そう言うと舌打ちされた。

【ほぼ百字小説】(5301) 袋小路だが行き止まりではなかったことがわかったのは、このあいだの記録的な大雨のおかげ。勢いよく流れ込んできた水は、突き当りの地面に何の抵抗もなく吸い込まれていった。後に残されたいらないものが我々、か。
 

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