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【ほぼ百字小説】(5165) もし負けたらお前が払う。そのかわり勝ったら儲けは全部おれたちのもの。かなり負けがこんでいる奴にそんなことを提案されて喜んで金を出すカモがいるからギャンブルはやめられない。これはギャンブルですらないし。
 

【ほぼ百字小説】(5164) 近頃、物忘れがひどいと思ったら、こんなふうに記憶が飛んでいたのか。タンポポの綿毛のように頭から離れていく。消えるのではなく、遠くへ行くのか。風の強い日にこんな崖の上に来たくなるのも、そういうことだな。
 

【ほぼ百字小説】(5163) 自転車の前カゴに入れた生き物が進むべき道を示してくれる。子供用の座席をハンドルに付けていた頃を思い出す。あの頃の娘は、この生き物より小さかったっけ。そうだったそうだった、こんなふうに空も飛べていたな。
 

【ほぼ百字小説】(5162) 桜吹雪のように見えたが蝶の群れで、あたりはたちまち真っ白に。見上げる空には雪雲のような黒い塊があるが、あれも雲ではなくて蝶なのだろう。では、あの中に見える稲光のような紫色の輝きもやっぱりそうなのかな。
 

【ほぼ百字小説】(5161) 第一幕の冒頭のシーンに登場してすぐに退場するのは、第二幕の終盤での再登場までの間に成長しておく必要があるから。まあそういう役なのだから仕方がない。そんなわけで今、楽屋でもりもり大量に食っているところ。
 

【ほぼ百字小説】(5160) 何かひとつずれたり外れたりしただけで無理になってしまうのは現実も虚構も同じで、ずれたり外れたりする何かが現実の出来事でも虚構の出来事でも同じだから、現実と虚構は対立概念ではないな、と虚構の中で気づく。
 

【ほぼ百字小説】(5159) 人がいなくなったあと、犬たちは味のしなくなった骨を使って人のようなものを作ってみた。そんな人のようなものたちが犬たちと仲良く幸せに暮らせたのは、人でなく人のようなものだったからだろう、と言われている。
 

【ほぼ百字小説】(5158) 亀を飼っている会社なのではなく、亀が社長をやっているのだ。ちゃんと契約書も交わしている。契約書の文字は、もちろん亀甲文字。一日社長という契約だが、亀の一日が人間の何日にあたるのかをまだ人間は知らない。
 

【ほぼ百字小説】(5157) 夜走っていて、遠くからのその音が心地良いことに初めて気がつき、低くて重いごろごろにまぶされたぱりぱりぱりがいかにも電気楽器っぽい、などと思っているところにぽつぽつと来たから、慌てて商店街の屋根の下へ。
 

【ほぼ百字小説】(5156) 点検が必要です、と機械が言うので機械の中に入ったら出られない。食べ物は流れてくるしトイレもあるが、様子を見に来た同僚も出られなくなった。何かの腹の中で暮らすって、こんなのかも。そろそろ新人来ないかな。
 

【ほぼ百字小説】(5155) 入ったのは目撃されており倉庫の出入口はここだけ。ついに機動隊が突入したが、影も形もない。熊はどこへ消えたのか。首を傾げて隊員たちが現場から立ち去ったあと、奥から身ぐるみ剥がれた男が、そいつが熊だーっ。
 

【ほぼ百字小説】(5153) 妻が旅行から帰ってくるので、娘とのふたり暮らしも今日で終わり。妻がいないとけっこう相手になってくれる娘だが、妻がいると私には不愛想になる。これって、あるあるなのかなあ。だからどうだということもないが。
 

【ほぼ百字小説】(5151) この季節になると路地のあちこちに黄色が顔を出す。植え込みや空き地だけでなく、溝の中やアスファルトの割れ目、タイルの隙間にまで。あらゆるところに黄色が出現する。黄色い蝶が点線のようにそれらを繋いでいる。
 

【ほぼ百字小説】(5150) 歩いているとあそこにもここにも、といたるところに花野が出現するのは、春だからというより、死んだからかな。それを確かめるには、冬場にまた死ねばいいのだろうが、わかったところでもう花実が咲くものでもなし。
 

【ほぼ百字小説】(5149) いつも並んで電線にとまっているあれは何なのだろうなあ。たまに地面に降りてくるが、近づくと飛んで逃げる。鳥には見えない。仲は良さそうだ。まあ大抵のわからないものは、ドローンということにしておけばいいか。
 

【ほぼ百字小説】(5148) 問題を解決するよりも、逃げられなくしてしまえば逃げないのだからそれで問題ない、と考えている。そうやってでも守らねばならない美しいものがある、と言っている。説明責任から逃げ回っている連中が、言っている。
 

【ほぼ百字小説】(5147) このあいだまでそこらじゅうが真っ白だったのに、もうすっかり黄緑色の方が多い葉桜だ。今年は散るのが早かったなあ。ああ、あっちにある白いのは、歯桜ってやつだね。歯茎は綺麗な桜色。噛まれないよう気をつけて。
 

【ほぼ百字小説】(5146) ごとごとやっていた鼠の気配が消えてひと安心。ごとごと鳴るたびに、こちらもどたばた音を立てたのがよかったのか。いや待てよ、もうすぐ沈む船だからかも。鼠に尋ねようにも鼠はおらず、安心でもあり心配でもあり。
 

【ほぼ百字小説】(5145) フェンスに囲まれた空き地にも春の花がたくさん咲いていて、そんな中を細長い闇が歩いている。尖った耳と尾のある闇。フェンスに隔てられていることですっかり安心している様子で、それも含めていかにも春の闇だ。
 

【ほぼ百字小説】(5144) 人が桜の下を通り抜けているのではなく、桜が人の上をまたぎ越えているのだ。桜にまたぎ越えられながらそのことに気がついて、そして気づいたことはそれだけではなく、そうか、桜が散っているのではなく、人が――。
 

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