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【ほぼ百字小説】(5136) 梅には鶯だが、桜には亀なのだ、と前々から主張しているのに、なかなかその認識は世間に広まらない。花筏の中に浮かぶ亀、とかそんな花札のある世界がどこかにあるのではなかろうか。たとえば、亀の甲羅の上とかに。
 

【ほぼ百字小説】(5135) 本当に花畑があるんだなあ、とは思ったが、その手前に金網があるのはなんとも野暮で、でもまあこうでもしないとすぐに踏み荒らされてしまうのかな。それにこの金網、私が娑婆から持ち込んだものなのかも知れないし。
 

【ほぼ百字小説】(5134) 向こうの岸にもこちらの岸にも桜が並んでいるから、条件さえ整えば水面に浮かぶ花筏を踏んで向こう岸まで渡れるはず。実際、そうやって渡る者を見かける。でも、帰ってこれなくなることも。まあそれはそれでいいか。 
 

【ほぼ百字小説】(5133) 夜桜だけは今も変わらない。いや、ライトアップなどしていない分、前よりもずっと良くなっているか。こんな春の夜には、ずらり並んで現れる。今夜は夜空に白く浮かぶあの桜の幽霊たちに酒を供えに行くことにしよう。
 

【ほぼ百字小説】(5132) 初めて見て魔法だと言われたら信じるくらいには、シャボン玉と魔法は似ていて、それはなんでも出せる舞台も同じだが、魔法を使いこなすにも相当な練習が必要だろうことを、舞台でシャボン玉を吹いた私は知っている。
 

【ほぼ百字小説】(5131) 大阪の地下にはいくつものダンジョンがあって、様々なトラップが仕掛けられているが、なんといってもそのいちばんの特徴は、攻略に成功したところで特に得るものはない、という点で、それがいちばんのトラップかも。
 

【ほぼ百字小説】(5130) 花に擬態した虫たちが、風をきっかけにしていっせいに枝から離れ、宙を舞いながら地面に落下していく。ひと通り終わると、虫たちは訓練された通り幹を登って、再び元の位置に着く。再生可能な桜吹雪と呼ばれている。
 

【ほぼ百字小説】(5129) いつからか音として聞こえるようになったから、この季節になるといたるところでいろんな大きさいろんな種類の爆発音を聞くことになる。ことにこんな満開の桜の下は、さながらお祭りの爆竹の中を歩いているかのよう。
 

【ほぼ百字小説】(5128) 水溜まりに映る太陽や雲の写真を撮るのをタルコフスキーごっこと呼んでひとりでよくやっていたことをふと思い出したのは、そんなこと忘れたまま水溜まりの太陽を撮ろうとしていたところに黒い犬が通りかかったから。
 

【ほぼ百字小説】(5127) ごろり仰向けになると青空を背景にした満開の桜は水底から見上げた花筏みたいで、でも、いつそんなものを見たんだっけ、と余計なことまで思い出しそうになり、桜の下の死者たちにとめられて慌てて考えるのをやめる。
 

【ほぼ百字小説】(5126) これを毎日書くようになってから、ほとんど夢を見なくなってしまったが、なにか関係あるのかな。夢を作るための材料とか部品をこっちで使ってしまっているからかも、というのもまた、夢の中で気づいた理由っぽいか。
 

【ほぼ百字小説】(5125) ずっと水を止められたままになっている広場の噴水が、今日は出ている。出過ぎなくらい勢いよく出ている。駅ビルより高く吹き上がり、虹がかかった。うわあああ、小便小僧がっ。誰かが叫んでいる。悲鳴が大きくなる。
 

【ほぼ百字小説】(5124) 水に濡れると綺麗な色になるが、乾いてしまうとなんでもない石、というのは確かにあって、この町がこんなに綺麗に見えているのも、たぶんそういうことなのだろう。だからといって、沈めてよかった、とは思わないが。
 

【ほぼ百字小説】(5123) 岡持ちを持っている。閉店する中華料理屋のを貰った。妻はそういうものが好きなのだ。そういうものがどういうものなのか私にはわからないが、カレーを入れて近所の公園に持って行き、花を見ながら食べたことがある。
 

【ほぼ百字小説】1(5122) 非常口と表示のある小さなドアに入っていく。行列を作って次から次へと入っていく。それをただ見ているしかないのは、自分には小さ過ぎて入れないことがはっきりしているから。でもまあ、並ぶだけでも並んでみるか。
 

【ほぼ百字小説】(5121) 我が家に鼠が侵入して、ごとごと活動中。台所の隅で音を立てたかと思うといつのまにやら土間で、そして二階の天井裏。いったいどこを通って移動しているのか。知らない通路の存在に、困りながらもわくわくしている。
 

【ほぼ百字小説】(5120) 夜、近所を走っていると、あちらでもこちらでも猫たちが、なあああお、なあああお、とよろしくやっている春の宵で、翌朝にはよく似た発声で愛しい猫の名を呼びながら近所をうろつく飼い主たち、いや、使用人たちか。
 

【ほぼ百字小説】(5119) 行きは上り坂、帰りは下り坂、というのが感覚としてすっかり身体に染みついているのだが、前は逆だった、というのも憶えている。行き先も経路も変わっていないのに。そうか、前はここに帰ってきている気でいたのか。
 

【ほぼ百字小説】(5118) 昔はこの公園にも森があって、昼間でも分け入ったり迷い込ませたりしてたよなあ。木を切り倒された今じゃ夜中に集まってその頃を懐かしむくらい。あの頃は、こんなものを森なんて呼べるか、なんて言ってたもんだが。
 

【ほぼ百字小説】(5117) 冬眠のあいだ、冷たい亀の内部時間は停止していて、だから亀にとって冬眠中の時間は存在しておらず、従って亀にとっての時間は連続ではなく離散している。亀の歩みはのろいが、スキップはできる、とはそういう意味。
 

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