小説を書いたりしてます。
【ほぼ百字小説】(5483) 箱の中で映画を育てている。蓋にあけた空気穴のひとつに目をあてて覗くと、暗闇の片隅に四角い光が見える。少しずつだが大きく、そして時間は長くなってきている。どんな映画に育つのかは、観終わるまでわからない。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5482) 甲羅のあるものと翼のあるものとどちらもないものが、今後のことを相談する。甲羅のあるものは甲羅を、翼のあるものは翼を使って、やるべきことをやると言う。どちらもないものはとりあえず百字でそれを書きとめる。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5481) 目覚めると足の小指に蔓が巻きついていて、いったいどこから、と手繰っていくと郵便受けから外へ。そのまま蔓を手繰って路地を進んでいく。そう言えば、この町へもそうやって来たんだっけ。もうそんな時期なんだな。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5480) 西日の中でしか見ることができないものがある。すこし赤みがかった温かいような寒いような寂しいようなこの光で、ここに映写された映画みたいなものなのかもしれないな。そんな時刻に近所をただ歩きながら思ったり。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5479) 字数にして百字分くらいの何かを捕まえて、百字に置き換えて、次々に世に放つ。何のためにそんなことを続けているのか、放ったそいつらが何をするのか、そのうちわかるかもしれないし、わからないままかもしれない。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5478) 公園の木に早贄が並んでいる。何の早贄なのかはわからないが、それを知ろうと張り込んだ者たちが翌朝にはことごとく早贄になっていたことからしても、それらが何かの早贄であることは間違いない。もうすぐ冬が来る。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5477) 亀の中にも秋が来る。それは甲羅に入った秋で、ではこれまでそこにあったはずの夏はどこへ行ったのか。いや、そもそも同じ亀なのか。あんなに食っていた煮干しも食わないし。食っていたのは甲羅の中にいた夏なのか。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5476) ずっと住んでいる借家なのだが、今朝初めてこんな部屋があったことを知って、しかしそんなおかしなことはないだろうから、これは夢に違いない、などと考えている自分は、自分の頭の中の知らない部屋にいるのだろう。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5475) 自転車でまっすぐな広い道を走って港を目指す。港の近くで昼間から劇の練習をするのだ。今日は衣装を着てやってみる。秋のはずだがまだまだ暑い。口の中で台詞を転がしながらペダルを踏み続ける。夏休みみたいだな。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5474) ようやく秋らしくなって物干しも涼しくなり、物干しで亀と話す時間も増えた。冬眠にはまだ早いが、もう何も食べなくなるこの時期、それでも亀が近づいてくるのは、話したいことが溜まっているのだろう。お互い様だ。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5473) 自分で自分を掘っているのは自分を掘り出すため、というのはわかっているが、もし自分を掘り出してしまった場合、この自分をどうすればいいのか、というのは自分でもわからない。まあ掘り出した自分に聞けばいいか。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5472) 機械の中から虫の音が、と驚いたが、虫が鳴いているのではなく、機械の音の中にこちらが勝手に虫の音を聞いてしまうらしい。そんなふうにして我々の脳は、失われた様々な音を聞けるのだ。そのための機械なのだとか。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5470) 稽古場にしている区民センターから駅までの近道を教わる。公園を抜け、路地を歩き、パチンコ屋の裏口から入って台の間を通って反対側のドアから出ると、道の向うは駅の改札。しかしどうやってこの道を見つけたのか。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5469) スマホを持つようになってもまだ古いデジカメを持ち歩くのは、たまに撮った覚えのない写真が入っているから。なんでもない空や雲や道端の草の写真だが、それがどこなのかわからない。こういうのも心霊写真なのかな。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5468) ずっと探していた。この世界が舞台のようなものだとすれば、神の視点の客席からも観測できないそんな場所がどこかにあるはず、と。そして見つけた。やはりあの世界は舞台だったのだ。今、楽屋でそんな話をしている。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5467) もう秋になってもいいはずなのにずっと真夏みたいで、狸にでも化かされているのかも、とか思っていたら、雨の後いきなり涼しくなって、ようやく秋が来たのかそれともこれも狸の化けた何かか。空には尻尾みたいな雲。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5466) 廃物で作られた天使が迎えに来た。翼はどこかに捨てられていた鷹の剥製のものだろう。見覚えはあるが、どこで見たのだったか。頭の上の輪は、缶詰のパイナップル。垂れた汁が、額を濡らしている。できたてなのだ。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5465) もう夏も終わるはずだが、あいかわらず真夏の暑さで、そして物干しにいる亀はこの夏、卵を産まなかった。二十五年以上、ずっと産んでいたのに。老化なのか、それとも何か他に原因があるのか。亀のことはわからない。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5464) 固く畳まれた翼は甲羅として機能するし、空気中を高速で運動するとき揚力が発生する甲羅は胴体翼として機能する。つまり、翼は甲羅であり甲羅は翼である。天使と亀とが同じものかも、と考え始めたきっかけは、それ。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5463) 砂の山に立っている棒を倒さないように気をつけながら、できるだけ多くの砂を取っていき、棒を倒した者が負け。だとばかり思っていたのに、砂をぜんぶ取り除いても棒はまだ立っている。誰が勝って、誰が負けたのか。#マイクロノベル #小説
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