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【ほぼ百字小説】(5404) どんな天使にも必ずその天使と対になる天使が存在していて、めったにないことではあるが、それらの天使が出会うと双方共に消滅してしまう。音も光も伴わない消滅で、それは天使に質量がないからだと考えられている。
 

【ほぼ百字小説】(5403) 連日の暑さのせいなのか、この夏もずっと物干しにいる亀の甲羅は、粉を吹いたように全体が白くなっていて、なんだか違う亀みたい、というか、亀ではない別の何かのようにも見える。でも、あいかわらず煮干しは食う。
 

【ほぼ百字小説】(5402) あの動物園に象はもういないが、象を撫でることはできる。壁の感触を頼りに暗闇を行くと、それがいつのまにか象の感触に変わる。運が良ければ象以外のもういない動物を撫でることもできるし、撫でられることもある。
 

【ほぼ百字小説】(5377) 百字で作られた話が塊になっていて、そこからときどき二百話ほどが切り離される。でもほぼ毎日、新しい話が供給されてくるから無くなってしまうことはなく、一種の動的平衡が保たれている。そういう生き物なのかな。

【ほぼ百字小説】(5376) 坂の途中に住んでいるから、坂の上の劇場からは自転車を漕がずに帰宅する。いつもそうしている。なのに、坂を登って劇場まで行く記憶は、自分の中のどこにもない。この坂、あの劇場の舞台の上に作られた坂なのかも。

【ほぼ百字小説】(5375) 坂の途中に住んでいるから、いろんなものが転げ落ちていくのを見る。たまにじりじりと登っていくものもあるが、何日か後でそれが転げ落ちるのを見たり。ではあの転げ落ちていくものは皆、登っていったものなのかな。

【ほぼ百字小説】(5377) 百字で作られた話が塊になっていて、そこからときどき二百話ほどが切り離される。でもほぼ毎日、新しい話が供給されてくるから無くなってしまうことはなく、一種の動的平衡が保たれている。そういう生き物なのかな。
 

【ほぼ百字小説】(5376) 坂の途中に住んでいるから、坂の上の劇場からは自転車を漕がずに帰宅する。いつもそうしている。なのに、坂を登って劇場まで行く記憶は、自分の中のどこにもない。この坂、あの劇場の舞台の上に作られた坂なのかも。
  

【ほぼ百字小説】(5375) 坂の途中に住んでいるから、いろんなものが転げ落ちていくのを見る。たまにじりじりと登っていくものもあるが、何日か後でそれが転げ落ちるのを見たり。ではあの転げ落ちていくものは皆、登っていったものなのかな。
 

【ほぼ百字小説】(5401) 空間が足りないので縮小化という計画が立てられたが、さすがに無理があるようで、体積はそのままで細長くする、ということになったらしい。そんなわけで我々は、細く長く生きる棒の束として、恒星間宇宙を渡るのだ。
  

【ほぼ百字小説】(5400) オオサンショウウオのお祭に行った話を聞いた。オオサンショウウオを祭るお祭、ではなく、オオサンショウウオたちが行っているお祭、と気づいてからは、人間のコスプレをしたオオサンショウウオとして過ごしたとか。
  

【ほぼ百字小説】(5399) 亀時間を計算することはできても、亀時間を生きることはできない。我々には決して手がとどかないそんな感覚を昔のヒトは、亀は万年、と表現したのだろう。ヒトによる考察など、所詮は亀上の空論にしかなり得ないが。
  

【ほぼ百字小説】(5398) 妻が旅立っていった、などと書くと、死んだと勘違いされる、というのは、あるあるなのかどうなのか。なんにしても妻はたまにふらりと旅立っていくから、そういうのはどう書けばいいのか。今朝、妻が旅立っていった。
 

【ほぼ百字小説】(5397) 鶴と亀とでおめでたい。翼あるものと甲羅あるもの。そして双方とも、恩返しをしてくれた、と伝えられているが、それでヒトが幸せになれたという話は聞かないし、そもそもそれを恩返しと思うヒトがおめでたいだけか。
  

【ほぼ百字小説】(5396) 人間を組み合わせて作られていることが目視でもわかるほどの低空を飛び過ぎていった。ボーイング747に似たその胴体も翼もエンジンも人間で出来ているが、機体の内部は空洞だから、必要な人間の数は意外に少ない。
  

【ほぼ百字小説】(5395) わりと有名な事件の現場だったと住んでから知った。回ってきた現場検証写真にあった被害者の人型は、自分が寝ているのとぴったり同じ位置。いろいろ腑に落ちたから、それを知ってからは死んだようにぐっすり眠れる。
 

【ほぼ百字小説】(5394) 天使と亀の本が出る。その見本が送られてきた。そもそもこれは、天使によって始まった。そして、亀のお陰で続いている。もちろんこれが出せるのもそうだろう。天使の飛行と亀の歩行。その軌跡が百字で連なっている。
 

【ほぼ百字小説】(5393) なんでもいいから好きなものを見つけられたら、それだけで充分、と娘にはずっと言ってきたが、そうか、もう見つけたのか。やっぱり母親の影響のほうが大きいのかなあ。クロッキー帳を買いに行く娘の背中を見て思う。
 

【ほぼ百字小説】(5392) こんなところへ何をしに来たのか、橋のたもとで考えている。ただ橋の様子を見に来ただけなのかも。だとしたら、橋を渡ってここへ来たのか、それともこれから橋を渡るのか。これは間違えられないぞ。大違いだからな。
 

【ほぼ百字小説】(5391) 私はすごくおもしろいと思うんだけど、こんなのおもしろがる人はいるのかなあ。物干しで亀に話しかけている。まあ亀にしてみれば、勝手に書かれてそんなこと聞かれても、だろうなあ。うん、わかってる、何も言うな。
 

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