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【ほぼ百字小説】(5101) 生まれてから今まで、少しずつ東へ移動している。少しずつだから生活圏はわりと重なっていて、重なりながら移動しているのだ。だからこうして電車で西へ向かうと、窓の外の風景は過去へと移動しているように見える。
 

【ほぼ百字小説】(5100) 裏表のない人間という評判は聞いていたが、メビウスの輪だったとは。一発ネタとしてはおもしろいのかも知れないが、それだけのためにそんな手の込んだ改造手術をするとも思えない。何か裏があるのでは、と疑うべき。
 

【ほぼ百字小説】(5099) 馬鹿と鋏は使いよう、とは言うけれど、馬鹿の作った仕組みだから使うのに鋏が必要で、プラスチックのカードをコピーした紙を鋏で切り抜いて書類に糊で貼り付けねばならない、というデジタル化は、諺にはなれるかも。
 

【ほぼ百字小説】(5098) 幽霊の話を聞きに行った。幽霊に関する話だと思っていたがそうではなくて幽霊が語る話なのだった。幽霊の語る技術は大したものだったし話の内容もおもしろおかしくて、だから文句を言われる筋合いはないとは思うが。
 

【ほぼ百字小説】(5097) ヒトではないものを騙して架けたという言い伝えのある橋だったが、今後それは言い伝えではなくなったということか。ヒトが作ったヒトではないものたちが、橋の修復作業に取りかかった。今度は騙されるんじゃないぞ。
 

【ほぼ百字小説】(5096) 一日二つ落ちてくる。すぐに使えるのもあれば、しばらく寝かせば使えるのもあるが、雨垂れのように一日二つ落ちてくる。いつ落ちてこなくなってもおかしくないが一日二つ落ちてくる。めでたくもありめでたくもなし。
 

【ほぼ百字小説】(5095) 何を記憶していて何を記憶していないのかを選ぶことができるようになったのはよかったが、何を記憶していて何を記憶していないことにするのがよかったのかを忘れてしまった、というか間違えて消してしまったのかも。
 

【ほぼ百字小説】(5093) お墓に来たことはあるが、開けたのは初めて。こんなところが開くんだな。中は小さな洞窟のようで、小さくなった母をそこに置いた。小さな石段が地面の下へとどこまでも続いている。小さければ下って行けるのだろう。
 

【ほぼ百字小説】(5092) あの猫の影、猫の形をしていない。気がついたのはつい最近だが、それからはあの犬の影もあの鳥の影も、と次々気がついてしまい、ついにはあのビルの影も。きっとこの地球の影もそうだろうな、と夜の中で考えている。
 

【ほぼ百字小説】(5091) 朝から強い風が吹いていて、いろんなものが飛ばされてくるのは困ったものだが、おかげでここが袋小路ではないとわかる。ここで圧縮されて速度を上げ高音と共に向こう側へと吹き抜ける、そんな風に運ばれる者もいる。
 

【ほぼ百字小説】(5090) いつもの店へのいつもの下り坂。なのに最近、坂が急になってきている気がする。実際、自然と足も速くなっていつもより早く着くから、気のせいではないのかも。でも、帰り道の上り坂は急にはなってきてないからなあ。
 

【ほぼ百字小説】(5089) すっかり春めいて、毎日歩いている道端に黄色が増えた。黄色い花に黄色い蝶、それに、そう思って見るせいか今日は蜂の黄色と黒の縞模様もいつもより鮮やかだ、とよくよく見ると、それは蜂ではなくて小さな小さな虎。
 

【ほぼ百字小説】(5088) 薄暗い客席で波の音を聞いている。これは録音ではなく生の音。なにしろあの惑星から連れてきた生きている海によるライブなのだ。もう地球にはない生の波音だ。波音の向こうから汽笛が聞こえる。これは効果音らしい。
 

【ほぼ百字小説】(5087) たまに巨人がやってくる。こっちを見て感心したような顔をしたり、腕組みして頷いたり、小さいのによくできてるなあ、と言う。小さいけど本物そっくり、とも。我々の作った物を見て笑う。子供の絵を笑うように笑う。
 

【ほぼ百字小説】(5086) いつも猫が日向ぼっこしている路地だが、今日は雨。いつもの石段に猫はおらず、でもまたあの犬がいる。雨の中にだけ見える犬。雨に投影されているのか、雨で出来ているのかわからないが、子犬のときからそうだった。
 

【ほぼ百字小説】(5085) 工場の向こうを黒い雲のようなものが二本足で歩いていて、早く逃げねば、と思う間にもう隣の動物園のところまで来てしまった。かなり大きく見えていたが、キリンより小さいのか。でもこのくらいのが怖いな、と思う。
 

【ほぼ百字小説】(5084) 縁の下の闇を飼っている。このあいだ新しく出来た更地で拾ったのだ。長らくそこにあった空き家の縁の下にいたのが、取り壊され住処を失くしたのだろう。うちに縁の下はないので、とりあえず天井裏に住まわせている。
 

【ほぼ百字小説】(5083) 猫たちがよく日向ぼっこしている路地で、こんなにぽかぽかいい天気なのに一匹もいない。首を傾げて通り抜け、しばらく歩いてから、いないのは猫だけではないことに気づく。道路に出た。信号は赤だが、自動車もない。

【ぼほ百字小説】(5082) 長いブロック塀の上に猫が並んでいる。近隣の猫勢ぞろい、といったところか。ただ並んでいるだけではなく、なんらかの規則に従って次々に入れ替わる。ごろごろとつとつ音がする。何かを計算しているのだろうと思う。
 

【ほぼ百字小説】(5081) 生きているほうならいいが、死んでいるほうに確定してしまうかもしれないから、あえて確定させずにきたのだが、ここまできたらやるしかないか。まあ最近では、死んでいると確定しても動き続ける方法もあるらしいし。
 

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