『柚木麻子のドラマななめ読み!』
柚木麻子(フィルムアート社)

私は日本のドラマに疎く本書が取り上げる作品はほぼ未見なのですが、この数十年での日本のドラマにおける人間と社会の描き方の変遷が見えて面白かったです。

そして今年の朝ドラ『虎に翼』に衝撃を受けた柚月さんが最後に、本書で取り上げた自分の愛するドラマについて、これらの作品がなければトラつばは生まれていないし貴重な灯火であったとしながらも、しかし「あくまでも既存のルールの中で、せいいっぱいフェミニズムを感じさせてくれた愛しいドラマ達であり、フェミニズム作品というのとは、違っていたのだな、と気付かされて、ハッとしている。」と書いていたことを読了後に何度も思い返している。

「『虎に翼』以降、明らかにドラマが、いや、日本そのものが変わるだろうな、という確信があり、リアルタイムで立ち会えたことを幸せに思う」とも。
本当に、社会問題から一歩引いたスタンスを取ることを良しとする制作側の意識が変わってほしいし、変化への希望を感じもするけれど、すでにバックラッシュが激しくなってきたように感じることも多くて辛い……。

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『柚木麻子のドラマななめ読み!』は2014年に始まった連載の書籍化なのですが、各話ごとに現在の視点からの振り返りが加筆されているのがとても良かった。
今ではもはや素直に読めない事柄も出てくるので、著者自身が当時と現在では作品への思いや俳優に対する認識が変化していることが分かる構成だったからモヤモヤが残らずに読めた。こういう本作りすごく好き。

そして番外編として、芦原妃名子さんの漫画『セクシー田中さん』の原作改変について(作家でありドラマ脚本も経験した自分の体験から、原作者が守られるようにとの思い)や、ファンを公言していた俳優の性加害について、被害者やファンに今の思いを語らせることへの批判(加害が当たり前の社会で「個人の知恵や直感やセルフケアでなんとか生き抜いてください」とぶん投げられていることの表れであり、そんなのは「自衛の啓蒙」ではないか)など、他社で書かれたエッセイも載っている。

ドラマがテーマのこの本で、これらのエッセイを入れるのはとても誠実だし、入れてくれて本当に良かった。

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