今年もっとも好きな語りだったのが、バーナディン・エヴァリスト『少女、女、ほか』(渡辺佐智江 訳)。
1890年代から2010年代後半の英国で、黒人の血を引く女性たちとノンバイナリーの12人が、一章ごとに視点人物となり各人の生が語られてゆく群像劇。
台詞には鉤括弧が無く、一人称と三人称がしょっちゅう切り替わり、文にピリオドが付かないままに勢い良く進んでいく。独特な語り方なのだけど、ものすごい没入感だった。
人種、セクシュアリティ、教育、階級、女性蔑視など、時に重なり合うそれらの抑圧に苦しみ打ちのめされ、食いしばって生きる12人の過去から現在。
しかし抑圧や暴力に傷つきもがくと同時に、12人ともが皆それぞれ内面に、別の属性へ対する見下しや偏見に基づく無自覚な差別心を持っている。
どんなに近しい関係性でも他者の内面を見通すことはできないし、良いことであれ悪いことであれ真に分かり合えることもない。
哀しいしやるせないけれど、完璧な人間など誰ひとり出てこない、それらの描きようが素晴らしかった。今年のベスト本です。