関西クィア映画祭2023で観たものの感想
『私たちの場所』(2022、インド)
劇場公開されるRRRやランガスタラム、KGF、PATHAANでは描かれないが、これもまたインドの姿。2人のトランス女性の部屋探しを軸に、トランスが受ける普遍的な差別や日常的な傷つきを極めてリアルに拾い上げる。クソみたいな奴、いい感じの友人、興味本位の人間…。そこに暴力はあるが救ってくれる英雄はいない。隣り合って生きる人々の少しずつの厚意が不安定に明日を繋いでいる。困難を描きつつ連帯の可能性や力強さも感じさせる名作! RRRでインド映画に興味を持った人にも是非観てほしい。
『ココモ・シティ』(2023、アメリカ)
セックスワークで生計を立てる黒人トランス女性4人が次々とまくしたてる。客として来るのは「イケイケ」の黒人男性や妻子持ちも多いこと、そういう客に限ってボトム(「ウケ」)であること……そして黒人の客ほどトランス女性との関係を隠したがること。もちろん背景には黒人社会の男性性信奉や同性愛嫌悪があり、黒人社会で女性に性別移行することの困難や路上暮らしに追い込まれる理由とも関係する。語りは極彩色だがフィルムはモノクロ。なお出演者の1人はこの4月に命を落としている。
〈続く〉
〈続き〉
『出産したパパ』(2019、英)
子どもを産むことに決めたトランス男性のフレディ。ホルモン投与をやめ、いくつかの破綻を経験しながらも出産へ向かう。子どもを望む気持ちと受け入れ難い身体の苦痛はどちらも真実で、誰かとの関係の中でではなく、個人の選択として出産を選ぶのが本作のポイントか。ただこういう作品を観るときは必ず、産みたいひとは産めばいい/どうしても遺伝的な子どもでないといけないか? の気持ちが同時にある。相当の条件が揃ったひとにしか実現できない話だということも。
海外短篇集の中からひとつ『GMT+9』(2022、ドイツ)
サキとマキ、終わりつつある2人が互いに語りかける形で物語は進む。生育環境、実家の経済状況、譲れないプライド、すれ違いの原因はよくあることだが、環境を変えてもそのズレが埋まるわけではない。不本意な別れに際して相手に少しの傷を残そうとする独白の応酬が、ザラリと苦い後味を残す。
今年は〆切等で首が回らず、4プログラムの鑑賞でした。スタッフの皆さん、ありがとうございました。