荒野のリア王、木庭顕さんの「ポスト戦後日本の知的状況」、証言としては、たいへん刺激的なのだが、ご専門の法学・法理論に関する記述の部分、法制史の知識がない一般読者の方に誤解を招くのでは、と懸念を抱く部分が多々ある。
例えば、ゲルマン法を「ナチスがでっち上げた」と一言で片づけている部分。
補足すると、ナチスは確かにゲルマン法を賞賛はしたが、ゲルマン法という概念そのものは遥か昔からある。
例えば翻訳もある、有名な「人権宣言論争」のイェリネックの論文。これは19世紀。
先日、木庭シューレの方に会ってお尋ねしたら、「いや、それはレトリック(シャレ)ですよー」と仰っていたが、これは一般読者には「シャレ」とはわからない。
欧州では一般にゲルマニストとロマニストの対立があるが、木庭さんは明らかにロマニストに与する。
それとも関連するが、ローマ法継受が行われなかった、英米のコモンローに関しては、木庭さんはそもそも言及しない。
おそらく法制史講義では、バランスをとっていたのだろうと推測するが、やはり一般読者向けのスタンダードな法制史は必要なのではないか?
しかし今西洋法制史のポストは極端に減少している。ここは木庭さんが口述でもよいから、後世のために残しておくべきではないだろうか?