「A.エルノーとJ.クリステヴァ」
A.エルノー(1940生)は2022年ノーベル文学賞受賞。日本語訳もあり、2021年ヴェネツィア映画祭金獅子賞の「あのこと」の原作者でもあるので、あるいは現在の日本でもクリテヴァより知られているかもしれません。
クリステヴァ(1941生)はルーマニアのユダヤ人、故国での共産主義青年団時代を経て、パリではL.ゴルドマン、R.バルトに師事。ラカン派精神分析と文化記号論を武器として、パートナーのF.ソレルスと1960年代から『テルケル』を舞台に華々しく知的舞台で活躍。
他方エルノーは、ノルマンディーの田舎町に工場労働者の子として生まれ、大学で中等教育資格を取り、1974年作家デビュー。エルノーの小説は全て自伝的小説。
この点でも「作者の死」を唱えたパリの「文化エリート集団」と好一対をなす。
政治的には「文革礼賛」(わざわざ当時の中国に行った)から共和主義の「主権」(ラカンの父)に回帰したクリステヴァに対し、エルノーはフェミニズム、気候変動、反自由主義、反イスラエルなどの運動に参加する、典型的な「政治参加する作家Écrivain engagé」である。
階級的背景という点では「フーコー伝」で知られるD.エリボン(ゲイ)とも共通している。