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「中村真一郎さんのこと」

 中村真一郎(1918ー1997)さんは、加藤周一、福永武彦と共に「マチネ・ポエチック」のメンバーであり、渡邊一夫が装丁を手掛けた『1946・文学的考察』の著者の一人でもある。この『考察』は仏文学者だけではなく、比較憲法学の樋口陽一さんにも大きな影響を与えた。

 中村さんはプルースト、ネルヴァル、またヘンリー・ジェイムズの日本への導入第一世代でもあり、またジョイスなどを参照しながら「20世紀小説」の方法論を意識的に探究した人でもあった。

 私は中村さんには学部学生時代、京都と東京で数回お会いしたことがある。その際は、加藤さんと同じく、「昔の書生さん」がそのまま歳を取られた、という感じの気さくな人柄。

 ただし、小説家である以上当然でもあるが、自身の内に「深い闇」を抱えられている方でもあった。

 今日8月15日に中村さんについて語るのは、彼の戦時中の体験がその「文学」の核心にあるから。

 中村さんは早くに父を失くされ、当時ほぼ上中産階級出身者で占められていた東大仏文科では例外的に経済的苦労をされた。

 大学院への進学を希望した際にも、「君の家は財産があるか?」と聞かれ断念。つまり、当時は仏文学を研究しても、それが「職」に繋がる可能性はほぼなかった。 

 

 

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