「アドルフに告ぐ」
手塚治虫晩年の「青年」向き(大人向き)の作品の中で、唯一完成したもの。
「ネオ・ファウスト」、「ルードヴィヒ・B」、「グリンゴ」など同時に進行させていた他の作品は未完、となった。
ルードヴィヒ・B(べートーヴェンのこと)におけるバッハの平均律クラヴィーアの視覚化の部分などは素晴らしかったと思うが「アドルフ」は手塚の個人史とも関わり、またテーマとの相性も良く、もっとも完成度が高い作品だと思う。
1936年のベルリンオリンピックの際、ゲシュタポに殺された弟のを行方を追ううちに、峠草平は戦時下の日本の反ファシズムグループにも関わり、特高に拷問を受ける。
神戸のパン屋の息子、アドルフ・カミル(ユダヤ人)と神戸生れでゲシュタポ入りするアドルフ・カフウマン。
少年時の親友が成長して、宿敵となるという設定も手塚がよく用いるものだが、これも全体の設定とうまく組み合わさっている。
それにしても、今回読み返して見て、自分も生れ育った神戸の細かい地名などに妙に反応して驚いた。
神戸の高校生だった頃はじめて読んだが、そこはまったく気にならなかった。
これって、やはり年をとったということなのかなー
しかし手塚治虫、S.ツヴァイクの言う「デモーニッシュ」なものに取り憑かれた天才だったと思う。