ロベール・ブレッソン「ジャンヌ・ダルク裁判」
当時の裁判記録を忠実に再現したとされるブレッソンの「ジャンヌ・ダルク裁判」。他の多くのジャンヌ・ダルクを扱った映画と異なり、啓示や戦闘のシーンは一切なし。
ジャンヌ・ダルクについては、いままでかなりの映画監督が取り上げてきました。ドライヤー、ロッセリーニ、リヴェットなど。シェクスピアの「ヘンリー6世」では、英側から描かれるので、かなり「好戦的」な女性として描かれます。
ブレッソンのこの映画では、「人を殺すのは本意ではなく、剣よりもむしろ旗をもつことを好んだ」と法廷で述べています。
記録に残っているわけですから、実際そう述べたのでしょう。
いずれにしても、ジャンヌ・ダルクは延々と著述でも描かれてきたので、ジョレス(社会主義者、第一次大戦に反対して暗殺)、バレスのダルク、近年ではFNのダルクなど、語り手によって、「ジャンヌ」にはかなり違う意味を担わされてきました。
この映画の最後には「有罪が確定している刑事裁判」の欺瞞、拡大すれば「すべての刑事裁判の欺瞞」を描くことを意識した、という趣旨のコメントが流れます。
これは「スリ」で最後ラスコーリニコフが司直の追求を振り切ってしまう、というブレッソンの姿勢にも通じるところでしょう。