ラス・ロバーツ『スミス先生の道徳の授業 アダム・スミスが経済学よりも伝えたかったこと』(村井章子 訳)を読了。人権概念以前の話なので、現代にそのまま当てはめると難しいところもあるけれど、こういう考え方は今もなされているし、好む人もいるなという感じ。例えば、法律で何かを禁止するのをアダム・スミスは否定している。法律で禁止してもそれをかいくぐろうとする人間が必ずいるので解決策にはならない。それよりもざっくりいえば自然に任せたほうがいいという考え方。それだとパワハラやセクハラも自然に任せたほうが上手くいくという話になってしまう。基本的に法律を否定する場合は、それでは根本的な解決にはならない、と述べるのがよくあるパターン。しかし、法律は被害者の尊厳を回復したり、状況を改善したりするものなので、そもそも予防策ではない。狙いが違う。被害者を見ないのが、人権思想以前の話だというのが、この本を読むと理解しやすい。
ただ、アダム・スミスの親友がデービッド・ヒュームだとは知らなかった。その時代には倫理はどう考えられていたのかを知るためには良い本。イマヌエル・カントも同時代の人だから、そういう意味でも興味深かった。

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一番面白かったのは企業のトップになった友人と交わした会話。

>「どうだい、うまくいってるかい。ボスになる気分はどう?」
>「おかげさまで、万事うまくいっている。だけど一つだけ、あんだかいやな感じのすることがあるんだ」
>「なんだい?」
>「どうもね、ボクのくだらないジョークに、みんなひどくよく笑うようになったんだよ。前はジョークを言ってもウケないこともあったのに、いまは駄洒落を言った瞬間にみんあが爆笑するんだ」
>自分はジョークがうまくなったのだと思いたい――でも頭では、そうではないことを理解していた。

政治家が失言するときのメカニズムをぴたりと言い当てているなと思って笑ってしまった。もちろん、政治家に限った話でもないんだけども。

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