1/ 深夜放送ラジオを聴くのが習慣だった中一の頃、 オールナイトニッポンからギターのダダダダダ、ダダダダダというカッコいい音が流れてきた。世界に正義が回復されるのではないかと思うくらいカッコよかった。"25 or 6 To 4” という曲だが、邦題は「長い夜」になっていた。訳が分からなかった。

2/ 意味は分からないが、カッコいい音となんか力の湧く哀愁みたいなメロディが気に入った。ライン録音なんて考えられない頃だったが、ラジオから出る音をカセットテープレコーダーに録音すれば十分満足した。音楽は雑音と共になければ物足りない😂。

3/ この頃に洋楽にどっぷり浸かり始め、南沙織の『17歳』が最後に買った邦楽レコードになった。ほぼ同時にTVを見なくなり、阪急三番街の楽器屋で白いフォークギターを買ってもらったのも中一のクリスマスだった。なんか違うと思ったが、それでクリームやツェッペリンをコピーしようとしてもがいた。

4/ どうやって弾いてるのか分からないだけでなく、何を歌ってるのか分からないのが地味に腹立った。『ミュージックライフ』という雑誌にその時ヒットしてる曲の歌詞が載ってることがあったが、中学生用という英語をなめた英和辞典には載ってない単語だらけだった。

5/ 学校にある大きな辞書にも載ってない単語がある。そのうちにスラングという存在に気がついた。梅田の紀伊國屋の洋書売場にスラングが分かる本がないか探しに行った。なんと、Slang Dictionary なるものがあるではないか!なんか今までずっと何かに騙されていたような気分になった。

6/ しかし、高くて買えなかった。家に帰って、”英語の勉強のために必要だから”と、母を説得した。実際はもちろん学校の英語の勉強にそんなもの要らない。母は全部知った上で騙されてくれたのかもしれない。

7/ 母はいつも騙されてくれたわけはない。同じ頃、東パキスタンがバングラ・デシュとして独立する戦争があり、当然悲惨な状況が起きる。ジョージ・ハリソンがバングラ・デシュの人を救うために有名ミュージシャンを集めてコンサートを行った。それを録音した3枚組のアルバムが発売された。

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8/ 3枚組ともなると、ランチ代をちょっとやそっとちょろまかして買える値段ではなかった。このレコードを買えば、バングラデシュの人が救えるのだと母を説得しようとしたが、「そんなお金は無い」の一言でおわった。

9/ ある日、弾けないギターと意味の分からない歌詞を前にスラング辞書を見ている僕に、「分かんのか?」と父が話してきたことがある。父と話した記憶があんまりない中では一つのハイライトとして残っている。僕は「分かるよ」と答えた。会話はそれだけだった。

10/ シカゴのロバート・ラムは真夜中にこの曲を書いていて、時計を見たら、午前4時の25分から26分前だった、つまり "25 or 6 to 4" だったので、それをタイトルにしたそうだ。邦題の「長い夜」は当たらずとも遠からずと言える。

11/ 今日は午前4時まで頑張って起きている長い夜の日本人も少なくないだろう。午前4時の25分から26分前に聴く曲はもう決まってる。
youtube.com/watch?v=XvnDd-meR6

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