遺産相続の折に関わることになったある親類は心にもなさそうな美辞麗句をすらすらと言ってのける人で、そういう人と対峙するのが初めてだった私にはとても衝撃的に感じられた。
けれども、互いに相容れない価値観が垣間見えるにも関わらず、相手が熱心に私をおだてるうちにいつしかビジネスライクな協力関係が完成していたから、大人になるとこういうこともできるのかと感心した。
結局のところそれは単に私を丸め込もうとしていただけであったことが後に明らかになるのだけれど、それはそれとして私にとって学ぶところの多い経験ではあった。
翻って私の両親がそのような行動を取る様子は一度も見たことがない。思うに、確かに私にとって親はモラハラ気質で実家暮らしは苦しいものだったけれど、それはもしかすると彼らの生真面目さや他者への妥協ができない性質からくるもので、そこに悪意はなかったのではないかと思う。
そう思うと私がインターネットで彼らを罵倒したり、したり顔で分籍届を見せびらかしたりしたのは少しアンフェアで恥ずかしいことだったように感じられた。
ところで私自身は完全に後者の気質だから、もっと妥協や間合いの取り方を学ぶべきなんだろうな。すべてを嘘で固めるのは寂しくて嫌だけど。