『ifの世界線』より「二〇〇〇一周目のジャンヌ」(伴名練)

先行のループものとは異なる読み心地のループものでありかつ王道の SF 作品としての本作を生み出すために、設定を巧みにコントロールしていると感じた。
登場人物にとって原因不明のループが嵩むと一般的にはホラー・不条理ものになるのだが、本作は大きく異なり、以下の二点によって王道の SF として成立している。
一点目に、原理的には無限回のループを起こせる計算機がループを起こすために非ゼロな計算時間を必要とすることにより、実際的には有限回のループしか起こせないという、ループの外部にその回数の物理的な制限を設けた点。ループの内部の主人公にとっては果てしない回数のループであるが、ループの外部の登場人物および読者にとってはしょせん原理の知られた有限のループである。この物理的制約によって、SF 的な読み心地が損なわれていない。また、ループに時間が掛かるということは、その時間で、ループの外部において、他の事件が発生し得るということでもある。

フォロー

二点目に、主人公の選択。ホラー・不条理になるのは、登場人物の精神がループによって歪められるためであるが、今作では主人公であるジャンヌ・ダルクの精神が強靱である。それがために、繰り返しに挫けずに(一見した)脱出が可能であるし、本作のラストを迎えられる。
大変に参考になった。特に二点目の、ループの内部の登場人物の選択について勉強になった。

ログインして会話に参加
Fedibird

様々な目的に使える、日本の汎用マストドンサーバーです。安定した利用環境と、多数の独自機能を提供しています。