#読了 # 読書
菅賀江留郎『冤罪と人類 道徳感情はなぜ人を誤らせるのか』
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有名な「二俣事件」と、その捜査に大きな影響を及ぼした「浜松事件」を中心に、戦中から戦後に静岡県で続発した冤罪事件についての論考。膨大な資料による力作で、犯罪プロファイリングの先駆者・吉川澄一の話などは面白く読んだが、余談に逸れやすく、衒学的でかったるいところも多かった。
一連の冤罪事件は「拷問王」と呼ばれた某刑事たちによる現場の暴走とかいう単純な話ではなく、当時の社会情勢、組織間の関係性(権力勾配や面子)、政治的野心や虚栄心など、さまざまな歴史の糸が絡まり合って起こったものらしい。
ただ、警察や検察にしろ、弁護士や裁判官にしろ、事件地域の住民にしろ、犯人を憎む心は同じで、その根底には「被害者への共感」や「正義感」という真っ当な感情(著者のいう「道徳感情」)がある。しかし、偏った考えに固執し、それにそぐわない情報を無視したり捻じ曲げたりしたとしたら、それはもはや真っ当ではない。無罪確定後も、犯人とされた人やその家族の多くは「悪人」として村八分にされ続けたそうだ。犯人逮捕までの不安や恐怖ゆえだから同情はするが、こういう行き場のない報復感情ほど怖いものもない…