ヴァージニア・ウルフ『灯台へ』
描かれるのは、たった数時間、人物も空間も限られた、特に大事件でも何でもない出来事。それが、語り手が次々と交代し、視点や時間を行きつ戻りつしながらじっくりと描写される。登場人物たちの、何かちょっとした動作や言葉が発せられる一瞬の中に膨大な情報が詰め込まれている。同じ人の中に相反する感情があり瞬間瞬間に大きく揺れ動くため、それぞれの人物像はなかなか定まらないのだが、その内面の感情の変化がとにかく細かく描写されていて、「そうだよな、人間ってこういう矛盾したものだよな」と歯痒くも愛おしさが湧いてくる。
限られた時空間が多角的に描写されているので、風景をかなり立体的に想像できる。まるで、同じ時間を繰り返すうちに少しずつ情報を得ていくタイムリープSFを読んでいるような気分にもなった。
最後の数ページ、あるセリフで薄膜がサッと剥がれたように空気が変わる。互いの愛情のすれ違いや「セリフは嘘をつく」を繰り返し描いてきた物語だからこそ、簡単なたった一言のセリフが浮き上がる。この小説の人々が希求してきたのはこれだったのか、と。鮮やか。
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