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山尾悠子『初夏ものがたり』

chikumashobo.co.jp/product/978

物語の中には、ずっと水の気配がある。雨、海、花、涙、血脈。四つの連作をつなぐ「タキ氏」にも、静かな水面のような雰囲気がある。湿気を含んだ、しかしまだ冷たさも残る移り変わりの時期である「初夏」の空気が、確かにこの物語によく似合う。

初期の作品、しかも少女向けとのことで、『飛ぶ孔雀』など最近の作品と比べるとするする読みやすく、読後感はサラッとしている。下手な作品ならお涙頂戴もしくはホラーになりかねない設定だが、そこに「タキ氏」という謎のビジネスマンを絡ませることで、ドライなおかしみが生まれているように思う(アガサ・クリスティ作品に出てくる「クィン氏」がモデルだそうだが、自分が連想したのは『笑ゥせぇるすまん』)

三話めの『通夜の客』が一番美しく、奥行きも感じられて好き。

ちなみに印刷関連業者として地味に感心したのは、フルカラー挿画が何枚かはさまれているが、本文用紙と同じ紙で裏写りもなく色鮮やかに印刷されているところ…(これまでには挿画のページだけ違う紙で刷られている文庫しか見たことがなかったので…)

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