レ・ファニュ『カーミラ』
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人間の業の深さにぞっとするような怪異譚から、民話のようなちょっと滑稽な話まで、思ったよりバラエティに富んだ短編集だった。
収録作の多くは、語り手が魔物に襲われた当事者ではなく傍観者あるいは伝聞者であるという怪談のよくあるパターンで、読み手(自分)と怪異との距離があるぶん、そこまで身に迫る感じでもなかった。
一方、表題作は語り手が被害者でもあるため、比較的生々しく感じる描写が多かった。悲劇の始まりである月の夜の描写が特に印象的だが、情景描写がなかなか美しく、また性愛的なシーンの描写も緻密で、恐ろしさより耽美性が際立っている。
非科学的なものを一笑に付すような合理的な人物が出てくるわりに、最終的にはキリスト教の司祭や牧師に助けを求めるあたりとか、19世紀末ならではの神秘と科学がごちゃ混ぜな価値観が見えるのも面白い。精神分析学はまだ登場していない頃だが、フロイトっぽさをちょっと感じる。