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小林照幸『死の貝 日本吸血住虫症との戦い』

shinchosha.co.jp/book/143322/

SNSで話題になっていなければ「日本吸血住虫」という寄生虫のことなど知らないままだっただろう。それは既に世間がその脅威に怯えずとも良くなったということだから、本書で文字通り命をかけて研究と治療に取り組んだ医師らの功績そのものである。時代性や科学リテラシーの変化に依るところもあったようだが、周囲から蔑まれたり理解されなかったりしても諦めなかった医療者たちには本当に頭が下がる。

病気そのものは古くから知られていても、問題視された理由の一つとして戦争があったのは皮肉というかなんというか。風土病のみられる地域では兵隊になるべき若い男性の発育が極端に悪かったため、この病気の症状を逆手に取り、わざと寄生虫に感染させて兵役を免れるという「ご利益」を謳う神社が流行ったとかいう話はぞっとしないが興味深い。

対策のメインは、寄生虫の中間宿主となる貝を根絶することだったが、薬剤の散布、貝の生息地である水場のコンクリート化といった積極的な駆除のほか、高度成長期になり合成洗剤が使われ始めるとその貝はほぼ見られなくなったという。衛生対策と環境破壊はしばしば紙一重になる。

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