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きたやまおさむ『「むなしさ」の味わい方』

iwanami.co.jp/book/b638602.htm

タイトルだけ見てミドルエイジクライシスがメインテーマかと思ったが、主に中高年向け(ザ・フォーク・クルセダーズの歌を知っていると理解しやすい)の対象関係論入門という趣の内容。

「むなしさ」は母子分離に例えられる何らかの喪失によってできた心の空隙であり、且つ、それを排除しようとしてもうまくいかない自己の矛盾=混沌=心の沼であるという。それは得体が知れず、蓋をしておきたいみにくいものではあるが、決して消し去ることはできないので、何とかうまく付き合うほうが良い。その混沌からは、文化や芸術やユーモアといった創造性が生まれることもある。

しばしば「考える暇もないくらい動け。そうすれば病まない」という言説をみかけるが、そうして思索する「無駄」な時間を削りに削っていった結果、社会はどうなったか。みな体や心が耐えられなくなって結局ひどく病んでいる。「無駄」を減らしたら、却って「無駄なむなしさ」ばかりが募るようになったのは皮肉だ。

ちょうど並行して赤坂憲雄『排除の現象学』を読んでいるが、この「排除」によって傷付いた人への処方箋的な本でもあった。

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