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雪朱里『「書体」が生まれる ベントンと三省堂がひらいた文字デザイン』

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かつて活字の母型(ぼけい)は一握りの天才職人が一つ一つ手彫りしていたそうで、その形である「書体」は属人的なものだったという。出版物には大小さまざまな活字が必要だが、職人頼みではあまりに非効率であった。そこで、高性能な活字彫刻機を導入して、自社オリジナルの書体による活字を生み出そうとした、三省堂出版の歴史についての本。

むかし擬古文の小説にはまった時期があり、古書店で昭和発行(初版は大正)の辞書を買った。見返したら三省堂のものだった。発行年からして本書のメインテーマである活字彫刻機を使ったものではなく光学的に縮小したものだと思われるが、それでもかなり文字は細かい。これも人の手で彫り出し組まれたものだということに改めて驚く。

書体が生まれる過程を読んでいくと、神は細部に宿るというが書体のデザインというのはその最たるものだな、とつくづく思う。コンマ数ミリにも満たないこだわりが、読みやすく心地よい本を作ってくれる。

一般には馴染みの薄いテーマかもしれないが、図版が多く、註がかなり細かいので分かりやすい。文章も著者の主観を排した淡々とした感じで、かといって堅すぎず読みやすかった。

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