鳥居『キリンの子』
刊行当時(2016年)はセーラー服のホームレス歌人として話題になっていた記憶があるが、それどころではない壮絶な体験の連続であったらしい。
昨年の朝ドラ『舞いあがれ!』、主人公の親友が言いたいことを表に出せない時に「短歌なら表現できるかもしれない」と示唆され歌人になっていくサイドストーリーがあったが、そういう、どうしようもない苦しみを歌に託さざるを得なかったのだろう、という歌にたまに出会う。自分を、少し離れたところから冷静に見つめるもう一人の自分がいて、二重露光された写真を見るように体験を噛み締めることで、自分を救おうとしているかのような。
あおぞらが、妙に、乾いて、紫陽花が、路に、あざやか なんで死んだの
生々しく血が吹き出しそうな凄絶な体験を噛み締める歌に目が行きがちだが、孤独や寂しさの後ろに強さを感じさせる歌も良い。
照らされていない青空ここに居る人たちはみな「夜」って呼ぶの
ほんとうの名前を持つゆえこの猫はどんな名で呼ばれても振り向く
走るたび剥がれてしまうけれどまたヘモグロビンは凝固を目指す