U-NEXTでみた『どたんば』がめちゃくちゃよくて、改めて内田吐夢監督はちゃんと追わないといけない…という気持ちになりました。落盤事故で生き埋めになった炭鉱夫たちの話、ときいて想像される方向としては「生き延びようとする炭鉱夫たちと救出隊の必死さ」描写に力が入るものだと思うんだけど、この映画はどちらとも違っていて、労働者の連帯の困難と手を取り合う意味をアクションとして語る映画なのだった。なので最後まで安堵があるかはわからない、後半にいたっては閉じ込められた人側はほとんど映らないのだ。最初は救助もやじうまもワーッとなるけど(アイスキャンディ売り!)時間が経つうちにイヤーな感じで絶望が侵食していく、しかし、だな。それぞれの持場の物語。

チョロチョロ…と坑内に水が漏れている序盤から水怖いし荒れる川の凄みと建屋の崩れ方がヤバくてヒャーッとなる、迫力あるショットもすごいんだけどみんながわやわやー!としてる奥に「上げる」「下げる」担当のウィンチのみっちゃんがぽつりと配置されてる、あの位置が実に素晴らしいと思ったな…圧巻のセット芸術。

朝鮮人坑夫たちを引き上げさせたものは何か、彼らを引き戻すには何が必要か。50年代には(あるいは、50年代だから)ここまで描けていて、今描けなくなったのは何か。についても当然考える。

映画的な運動といえば落下と上昇だけど、これぞまさに、なんだよな……そして話が動かない中盤が長くてグダるという声もあるんだけど、私はむしろそこがこの映画をスペクタクルを超える話にしてていいなーと思った。スペクタクルとしてもすごいんだが。わかりやすいおえらいさん批判やメディア批判を言葉にしないのも労働者が労働者であること、を描く上で良かったと思う。そういう話ではない。のだ。

諦めモードになった家族の発言が現実を突きつけてから流れが変わっていくまで一気にいくわけではないのがすごくよくて、転調となる部分に達するまでに連鎖的にではなくひたすら辛抱強く「状況」が積み重ねてある。打開策はご都合主義じゃなくそうでもない限りはどんだけ必死でも無理という話なのだからあれでいいのよ。最後の最後、みんなの感情の総量が一定を超えたとき、それこそあの崩落がごとく一気に終盤の高揚となる、ここが物語上必然なのがすごいんだよな……それにしてもあの田んぼ越しのあちらがわ!あのおまわりさんの看板!ロケーション素晴らしすぎませんか。

あ、ちなみに台詞はすごい聞き取りにくいです。けど全部わかんなくたっていいのよ、そのぶん画面に集中できるし(これは旧作邦画見始め期はハードルになる人もいるかもしれんが…慣れです)

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良質な韓国映画における倫理とアクションを高く評価する筋の人にこういう旧作邦画、届いてほしい気がするんだけどなー。

それにしても、脚本の良さ(もちろんすごく良い台詞もたくさんあるし話運びも好きなんだけど。お坊さんのとことかもヒャーと思った)だけではとうてい説明のしようがない何か圧倒的な奥行きがある、という点で内田吐夢監督は気になって仕方なくなってきた。『血槍富士』でも思ったんだけど、なんだろうこの映画1本内で複数回出現することは稀な「完璧なショットでは…」感がポンポン出てくる感じは。

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