なんかもう成瀬だけ見てれば概ね満足な映画ライフができるんではないかという気がしてきました。『妻よ薔薇のやうに』はちゃっかりしっかりな娘さんも文化的おかあさんも「情つえええ」の女の前には何もできんな…という話なんだけど、しょうもないことこのうえない父ちゃんよりだいぶ良いものを手にしてると思うので、まあ痛み分けっすな(父ちゃんは無傷)。という話なのであった。金と情の一貫性ー!ということもないんだろうけど。筋からすればもっと湿気が強くなりそうなんだけど、モダンなユーモアのほうが前に来ていてしれっとおかしい。ヒロインと恋人との関係もかわいい。
しかしこのときからこれしかないショットにこれしかない音の感覚の完璧さにびっくりする。PCL時代の成瀬もっと見たいー。
おじさんの鰹節とたくあんのつまみ食いとか、義太夫うなり始めてヒロインが笑いをこらえてるとこにつがいのことりのカットが挟まれるのとか、文化的おかあさん(最近でもなかなか描かれにくいタイプの良いキャラだと思う、彼女はまったく悪妻ではないが平凡な男からすると実に困る女なのだ、まったくおとうさんときたらしょうもない…)の大真面目な「今インスピレーションが!」とか、劇伴の調子が変わってギターの音色が…が下宿の2階からだったとわかるとことか、「紅茶もあるよ」の反復とか、てくてくてくてく歩いていくリズムとか、なんかこう全部があるべきところにあるゆるっとしたとこがない気持ちよさ。
東京のお嬢さんに丁寧に丁寧にふるまう田舎の方の妻の忍ぶ女としての理想化された立派さなんぞ普通の映画ならドン引きレベルなんだけど、あの人も自己の幸福を貫いてるだけでそのためなら何だってやったるでな人なだけよな(娘さんたまったもんじゃねーだろとも思うが、まあそれしか知らなければそれも幸せなんかもねえ)と思わせてくれるのが成瀬の映画の好きな感じ。