そして問題の「らくだ」。「前付け」とあり、プログラムによると、普通は死体でしか登場せず、鼻つまみ者だったということしかわからないらくだが、実際はどういう人間だったのかの前段のストーリーをつけ足すことで、本編を少し違う角度から味わえるのではないかという趣向だとか。さあどんな前段が……と思ったら、これはあれだったんだよ、「あわせ鏡」の新作部屋で掛けた「らくだの馬」! あれはけっして、ただ「高砂や→青菜→寝床→寄合酒→らくだ」と古典落語をつないだ愉快なメドレー風小品ではなかったんだ。商人を小ずるく騙してフグ鍋をこしらえる、らくだ最後の日の出来事だったんだ。そのおかげで、確かに気味の悪いただの死体がちょっぴり人間味と哀れさを帯びたかな。
仲入り後の幕が開いたら、すでに師匠は高座で頭を下げている。そして顔を上げるなり、「た~か~さ~ご~や~」と始まり、最後の最後、願人坊主が火屋で焼かれて飛び出て「冷でもいいからもう一杯」と下げたあと、三味線太鼓に乗ってかんかんのうを上半身だけで踊りながら幕が下がっていった。こういう工夫、ほんとに好きなんだよねー。それにしても、このパンフレットの写真のいいお顔ったら。