作り過ぎる人と食べる人
「またやっちゃった」
ほかほかと熱い湯気を立てている鍋を見ながら後悔する。後から悔やむから後悔。充分に知ってはいるが、何度目の後悔なのかはもう数えることをやめた。
大きい鍋の縁ギリギリまで入った中身を見つめ、それから悩むこと数秒。エプロンのポケットに入れていたスマホを取り出してメッセージアプリを立ち上げて、とある人物宛にトトト……と文字を入力する。
『カレー作りすぎた。食べるの手伝って』
返事が来たのは数分後。
『またやったの?手伝うけどさ』
呆れたようなスタンプがセットで送られてきたのには応戦するスタンプを送り返しておく。短い応酬の後、30分後と返信が来たので了解の返事をして画面を閉じた。
「来たよ」
「くるしゅうない」
「呼んだの君でしょ」
いらっしゃいとか言うような相手じゃないしと内心で思いながら、呼び出した金髪の男を部屋の中に通す。
「手伝うことは?」
「サラダのお皿持ってって。私カレーよそっとくから」
「了解」
適当に冷蔵庫の中の野菜で作ったサラダのお皿を持っていく男。何度目の呼び出しかも分からないので歩みに迷いは無い。
準備も終わってテーブルに座り、お互い手を合わせていただきますの挨拶をして食べ始める。
好敵手と食卓を囲む。そんなおかしな光景が、度々起こる日常の話。
意味違いの掃除
最悪だった。
心底げんなりした様子で言うナナリーは、珍しく自分から僕の方へと腕を絡めてするりと身を寄せてきた。
これから共に夕食を食べに行く所なのだが、待ち合わせにこれまた珍しく遅れてきた事といいこの状況といい、どうやらなにかあったらしい。尋ねると、昔二度ほど会ったことのあるあの自称幼馴染と会ってしまったらしい。僕にとってもいい思い出はなく、ああ、あの傍迷惑な……と言ったら水色の髪が縦に揺れた。
「色気づいた似合わない服着やがってとか、そんな格好でどこ行くんだとか……やかましいったらありゃしない。服装も行先もあんなヤツに関係ないっつーの。無視して目眩しかけてさっさと離れてきた」
「その服、ブルネル達と買い物に行って買ったって言ってたやつだろう?似合ってるよ」
「……ん、ありがと……あんなのの言う事なんて気にしてないけど、あまりにもねちねちうるさいからちょっと疲れちゃった」
せっかくこれからご飯なのにごめんねと、ナナリーが謝ることでは無いのに謝罪される。全くもって度し難い。
「……ねえナナリー。掃除、しようか?」
未だ腕に懐いてくれているナナリーにそう聞けば「前みたいに雑巾で?わざわざいいわよ」と笑う。それよりもお腹空いた!と僕の手を引く彼女に、とりあえず今は様子見かと思考を切り替えた。
気分屋絵と文字書き。成人済。今はまほうけ67メイン